美猴王 「せ、先生。は、は、はじめて、お目に、
か、か、か・・・」 なんとか挨拶しようとするが、 焦るばかりで言葉にならない。 祖 師 「まず素性を申すがいい。 おまえは、どこの何者じゃ」 美猴王 「東勝神州は傲来国、 花果山水簾洞のものてして」 祖 師 「このうそつきめ!出て失せろ! おまえのようなものが、 仙術をおさめるなど、もってのほか」 美猴王 「いえ、うそいつわりは申しません」 祖 師 「なにをしらじらしい。今、東勝神州と 言ったではないか。大海が二つと南贍部州と その向こうが東勝神州なのだぞ。あんなところから 来られるわけがない」 美猴王 「いえ、いかだに乗って海を渡り、 陸にあがって訪ねまわり、十何年もかかって、 やっとここへ着いたのです」 祖 師 「なるほど。それだけかかったのなら、 そうかもしれぬ。で、姓はなんという?」 美猴王 「姓はありません。父親も母親もいねえもんで」 祖 師 「木の股からでも生まれたのか」 美猴王 「いえ、木じゃなくて、石から生まれたんで・・・。 なんでも花果山のいただきの石が割れて、 生まれたってことです」 祖 師 「そうか、してみると、おまえは、天地が生んだ ようなものだな。ちょっと立って歩いてみなさい」 美猴王はひょこんと立ち上がり、ひょっこり、ひょっこり、 歩いてみせた。 祖 師 「はっはっは、よく松の実を食いに 胡孫(どちらにも獣辺がつく。コソン。 中国語で猿の意。ちなみに美猴王の猴も 猿を示す)が出てくるがよく似ておるぞ。 よし、おまえの姓もそこから取ってつけてやろう。 胡孫(さる)の胡・・・うーむ。けものへんに古と 月か。古は老に通じ、月は陰に通じる。 あまり縁起がよいとはいえんな。 どうやら孫の方がよさそうだ。 けものへんをとれば孫、つまり子と系になる。 子は男児の意、系は女児の意。 じつによく釣り合いが取れておる。 よし、おまえの姓は孫と決まった」 美猴王 「こりゃどうも、ありがとうございます。 姓っていうものも、あだやおろそかにゃ、 できねえんですね。ところで先生、 ついでといっちゃなんですが、このさい名前の方も つけちゃくれませんか。姓だけじゃ、呼びにくいや」 祖 師 「ここでは、弟子の名前の付け方が決まっている。 広大智慧(こうだいちえ)、 真如性海(しんにょしょうかい)、 頽悟円覚(えいごえんかく・四文字のうち、 最初の一字は間違い。正しい字はカタカナのヒ、 その下にノギヘン、それをヘンとしてつくりに頁) この十二字から一字づつとって新入り弟子の 名前をつけるのじゃ。おまえの順番は、 十番目の悟にあたる。そうだな、 では悟空ではどうかな」 美猴王 「いいもわるいもありません。それじゃ、これからは 孫悟空と名乗ることにします」
by Seiten_Taisei
| 2001-01-29 00:00
| 児・花果山水簾洞の巻
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