悟空の修行 (ごくうのしゅぎょう) その3

祖 師 「どうだ悟空。ものになったか」

悟 空 「おかげさまで。
      もう雲に乗って飛べるようになりました」

祖 師 「ほう。ひとつ見せてもらいたいものじゃ」

 待ってましたと悟空、
トントントーンと連続宙返りを打ちながら
空中に飛び上がる。五、六丈の高さにのぼって、
あたりにたなびく雲に乗ると、ほんの一服のあいだに、
三里ほどを往復してみせた。

悟 空 「これが雲に乗る術です」

祖 師 「はっはっは。
      それでは雲に這い上がった程度じゃ。
      一日のうちら全世界をひとまわり
      するようでなければ、雲に乗ったとは言えん」

悟 空 「そりゃ、無理というもんです」

祖 師 「成せば成る。何事もこころがけしだいじゃ」

悟 空 「お願いです。乗りかかった舟って
      いうじゃありませんか、どうせなら、
      全部教えてくださいよ!」

祖 師 「よかろう。今見ていると、
      おまえはトンボ返りをしながらのぼっていった。
      あのやり方なら觔斗雲(きんとうん)の術が
      いいだろう。 
      觔斗というのは、宙返りのことじゃよ」

 悟空を呼び寄せ、なにやらムニャムニャ秘法を授けて、

「この雲は、宙返り一回で、一万八千里飛べるぞ」

これを聞いた弟子たちは、みな口々にうらやましがった。

「いいなぁ、悟空。その雲を使って飛脚でもやれば、
食いっぱぐれないぜ」

 その夜のうちに、悟空は觔斗雲の術を会得して、
それから毎日、自由自在に飛び回った。
 ある日、弟子一同が松の木陰で議論をしていたとき、

弟子達 「悟空、おまえ、
      先生からいろいろ教わったようだが、
      できるようになったかい」

悟 空 「ええ、おかげさまで。
      わたしも一生懸命やったんで、
      まあ、ひととおり・・・」

弟子達 「ちょうどいいや、じゃあ、やってみせてくれ」

 こう言われて悟空、いささか得意になった。
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# by seiten_taisei | 2001-02-19 04:50 | 児・花果山水簾洞の巻

悟空の修行 (ごくうのしゅぎょう) その2

 須菩提祖師は、悟空を三度打った。
これは三更(さんこう・真夜中のころ)の頃来いという意味。
両手を後ろに回して奥に入り、扉を閉めてしまったのは
裏門から入って来いという意味。だれもいないところで
教えてやろうという意味、そういう意味だったのである。
 やっとのことで、夕暮れになる。悟空はみんなと一緒に
寝床に入り、眠ったフリをして夜中を待った。
山の奥のことて時計もない。
吸う息、吐く息で時間をはかり、そろそろ真夜中というころ、
こっそり起きだして裏門へまわり、須菩提祖師の寝室へ。

祖 師 「この猿めが!何をしにきた。
      向こうで寝ておれっ!」

悟 空 「昨日先生が真夜中に裏門から入って来い、
      そうおっしゃったと思いましたもんで。
      ずうずうしいかと存じましたが、
      こうしてやってきました」

 この返事を聞いて須菩提祖師、
心中ひそかに喜んだ。
・・・あの謎が解けたか。してみるとこいつ、
やはり天地から生まれたに違いない。

祖 師 「どうやら、おまえには縁があるようだ。
      よろしい、ではそばに寄って、よく聞け。
      今から不老長寿の秘訣を授けてつかわす」

  悟空は、寝台の前にひざまずいて、
じっと耳を澄ました。
  こうして悟空は、不老長寿の秘法を授かった。
外に出れば、東の空は、かすかに白くなっている。
そっと部屋へ戻ると、

悟 空 「朝だぞ!起きろっ!」

 寝台をゆすって、みんなを起こした。
悟空が出かけていったことに、気づいたものは、
誰もいなかった。
 それから三年。
 ある日須菩提祖師が、久しぶりに講義をおこなった。
その講義の途中のこと。

祖 師 「悟空は、どこにいる」

悟 空 「ここにおります」

祖 師 「どうだ。少しは修行が進んだか」

悟 空 「ええ、そろそろ卒業できるんじゃないかと・・・」

祖 師 「ふーむ。そういうことなら、次は三つの災いに
      気をつけることじゃ」

悟 空 「三つのわざわい?そりゃ先生、何かの
      間違いでしょう。道をさとり、徳を積めば、
      天と寿命が同じになり、病気もしないはずです。
      災いなんかが起きるわけありませんよ」

祖 師 「ふつうはそうだ。だがな、
      おまえは天地日月(てんちじつげつ)のはたらきに
      逆らって修行をしているのだから、
      そうはいかない。五百年後には、
      天はかみなりをくだしておまえをうつ。
      さらに五百年後には、火の災いが降りかかる。
      これは陰火といって、この火に焼かれれば、
      五臓は灰となり、手足はボロボロとなって、
      千年の苦行も夢に終わる。
      さらに五百年経つと、今度は風の災いだ。
      この風は贔風(ひふう)といって、
      からだの穴という穴から吹き込んで、
      骨も肉も溶かしてしまう」

 悟空は恐ろしさに震え上がり、その場にひれ伏した。

悟 空 「先生、お願いです。その災いから逃れる方法を
      教えてください」

祖 師 「よかろう。だが、この秘法はな、三十六通りと
      七十二通りと、二種類あるが、
      どちらがよいかな」

悟 空 「どうせなら、多い方でお願いします」

祖 師 「ちこうまいれ」

 悟空の耳元で、なにやら、ぶつぶつと呟いた。
どんな秘法を授けたのか、それは誰にもわからない。
しかし、一を聞いて百を知る悟空のこと、
たちまちのうちに七十二通りの変化(へんげ)を
会得してしまった。
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# by seiten_taisei | 2001-02-14 09:24 | 児・花果山水簾洞の巻

悟空の修行 (ごくうのしゅぎょう) その1

 悟空は名前をもらって大喜び、それからというもの、
毎日熱心に修行に励んだ。礼儀作法、お経の勉強、習字、
そのあいまには畑を耕し、たきぎを拾い、水を汲む。
こうしてあっという間に六、七年たった。
 そして、ある日のこと。
 この日、三星洞では須菩提祖師の講義があって、
悟空も兄弟子たちに加わり、すみで耳をかたむけていた。
ところが聞いているうちに、妙にこころがウキウキしてきた。
じっとしていられなくなって、はじめは頭をかいたり、
耳をひっぱったりしていたが、
とうとうその場でおどりだした。

祖 師 「これこれ悟空、何を踊っておる。
      ちゃんと話を聞いたらどうじゃ」

悟 空 「いえ、ちがうんです。聞いているうちに、
      なんだかこう・・・先生の声が、とてつもなく
      素晴らしく聞こえてきたんで・・・。つい、浮かれて
      踊りだしちゃったんです。どうもすみません」

祖 師 「ほう。そんなふうに聞こえたか。
      それは大進歩じゃ。おまえはここに来て
      どれほどになるか」

悟 空 「さあ、どうも時間には弱いもんで・・・。
      そうそう、裏山に桃の木があります。
      あの桃の実がなるたびに、食べあきるほど
      食べますが そんなことが今までに
      七回ありましたっけ」

祖 師 「すると、もう七年じゃな。
      で、おまえは何を学びたいのかな」

悟 空 「道に関係あることなら、なんでもいいです」

祖 師 「ひとくちに道を学ぶと言っても、
      入り方はいろいろだ。傍門(ぼうもん)といってな、
      横の門が三百六十ある。どれを選んでも悟りに
      到達できるが、おまえはどの門がいいのじゃ?」

悟 空 「教えてもらえれば、なんでもやります」

祖 師 「それでは、流門(りゅうもん)はどうかな」

悟 空 「それはどういうものです?」

祖 師 「流門の中には、儒家、仏家、道家、陰陽家、
      墨家などがある。お経をあげたり、
      念仏をとなえたりするのじゃ」

悟 空 「それをやれば、不老長寿になれますか?」

祖 師 「流門を学んで不老長寿になろうとする。
      これは、壁の中の柱じゃ」

悟 空 「なんです、そのかべのなかの
      はしらっていうのは?」

祖 師 「家を建てるとき、これを頑丈にしようというので
      壁の中に柱を立てる。だが、やがて家が
      倒れてみれば、柱はきまって腐っておる」

悟 空 「なーるほど。長持ちしないってわけですね。
      では、やめておきます」

祖 師 「それでは、動門はどうじゃ」

悟 空 「そりゃ、なんです?」

祖 師 「陰を採って陽を補う、というやつじゃ。
      そのために、身体を鍛えたり、
      薬を練ったりする」

悟 空 「それで、不老長寿になれますか?」

祖 師 「動門を学んで不老長寿を得んとする。
      これ水中に月をすくうがごとし、じゃな」

悟 空 「また、なぞなぞですね。わかりません」

祖 師 「月が大空(たいくう)にかかれば、
      水にかげがうつる。だが、目に見えても、
      これをすくいとることはできない。
      つまり、骨折り損というわけじゃよ」

悟 空 「そいつも、ごめんこうむります」

  とたんに須菩提祖師、台から飛び降りて、
悟空を一喝した。

「こらっ!猿のくせに何をなまいきなことをいうか!
あれもいや、これもいや、
いったい何がいいというのだ」
 近寄りざまに、手にした竹箆(しっぺい・竹冠の下に内、
その下に比と書く、へら、という意味の漢字)で
悟空の頭をピシピシピシと三べん打つと、
両手を後ろに回して奥へ入り、扉を閉めてしまった。

弟子たち 「この馬鹿ザル!
      とうとう先生を怒らせてしまったな。
      こんどはいつ講義をしていただけるかわからんぞ」

 さんざん悪態をつかれたが、悟空はけろりとして、
嬉しそうに笑うだけ。それというのも、悟空には、
ちゃんとわかっていたからだ・・・。
 須菩提祖師は、悟空を三度打った。
これは三更(さんこう・真夜中のころ)の頃来いという意味。
両手を後ろに回して奥に入り、扉を閉めてしまったのは
裏門から入って来いという意味。
だれもいないところで教えてやろうという意味、
そういう意味だったのである。
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# by Seiten_Taisei | 2001-02-13 20:11 | 児・花果山水簾洞の巻

花果山の石猿 (かかざんのいしざる) 5

美猴王 「せ、先生。は、は、はじめて、お目に、
      か、か、か・・・」

 なんとか挨拶しようとするが、
焦るばかりで言葉にならない。

祖 師 「まず素性を申すがいい。
      おまえは、どこの何者じゃ」

美猴王 「東勝神州は傲来国、
      花果山水簾洞のものてして」

祖 師 「このうそつきめ!出て失せろ!
      おまえのようなものが、
      仙術をおさめるなど、もってのほか」

美猴王 「いえ、うそいつわりは申しません」

祖 師 「なにをしらじらしい。今、東勝神州と
      言ったではないか。大海が二つと南贍部州と
      その向こうが東勝神州なのだぞ。あんなところから
      来られるわけがない」

美猴王 「いえ、いかだに乗って海を渡り、
      陸にあがって訪ねまわり、十何年もかかって、
      やっとここへ着いたのです」

祖 師 「なるほど。それだけかかったのなら、
      そうかもしれぬ。で、姓はなんという?」

美猴王 「姓はありません。父親も母親もいねえもんで」

祖 師 「木の股からでも生まれたのか」
美猴王 「いえ、木じゃなくて、石から生まれたんで・・・。
      なんでも花果山のいただきの石が割れて、
      生まれたってことです」

祖 師 「そうか、してみると、おまえは、天地が生んだ
      ようなものだな。ちょっと立って歩いてみなさい」

 美猴王はひょこんと立ち上がり、ひょっこり、ひょっこり、
歩いてみせた。

祖 師 「はっはっは、よく松の実を食いに
      胡孫(どちらにも獣辺がつく。コソン。
      中国語で猿の意。ちなみに美猴王の猴も
      猿を示す)が出てくるがよく似ておるぞ。
      よし、おまえの姓もそこから取ってつけてやろう。
      胡孫(さる)の胡・・・うーむ。けものへんに古と
      月か。古は老に通じ、月は陰に通じる。
      あまり縁起がよいとはいえんな。
      どうやら孫の方がよさそうだ。
      けものへんをとれば孫、つまり子と系になる。
      子は男児の意、系は女児の意。
      じつによく釣り合いが取れておる。
      よし、おまえの姓は孫と決まった」

美猴王 「こりゃどうも、ありがとうございます。
      姓っていうものも、あだやおろそかにゃ、
      できねえんですね。ところで先生、
      ついでといっちゃなんですが、このさい名前の方も
      つけちゃくれませんか。姓だけじゃ、呼びにくいや」

祖 師 「ここでは、弟子の名前の付け方が決まっている。
      広大智慧(こうだいちえ)、
      真如性海(しんにょしょうかい)、
      頽悟円覚(えいごえんかく・四文字のうち、
      最初の一字は間違い。正しい字はカタカナのヒ、
      その下にノギヘン、それをヘンとしてつくりに頁)
      この十二字から一字づつとって新入り弟子の
      名前をつけるのじゃ。おまえの順番は、
      十番目の悟にあたる。そうだな、
      では悟空ではどうかな」

美猴王 「いいもわるいもありません。それじゃ、これからは
      孫悟空と名乗ることにします」
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# by Seiten_Taisei | 2001-01-29 00:00 | 児・花果山水簾洞の巻

花果山の石猿 (かかざんのいしざる) 4

 岸辺には人間の姿も見える。魚を取るもの、
鳥を射るもの、ハマグリをほるもの、
塩水を汲むもの・・・
 人間達に近づいて行った美猴王、両手をあげて、
妙な格好を作り

「こわいぞ、こわいぞ」

人間達はきもをつぶして、ちりぢりに逃げる。
逃げ遅れたのを捕まえて、衣類を剥ぎ取り、
見よう見真似で、なんとかそれを身に着けると、
そ知らぬ顔で町へ紛れ込んだ。人間の作法や、
言葉を覚えながら、町から町へ。神仙をたずね、
不老長寿の術を求めて、旅を重ねたのである。
 ところが、彼が出会った人間はといえば、

   ロバに乗れば馬が欲しい
   大臣になれば王になりたい
   遅寝、早起き、ただあくせくと
   その日暮らしで一生を送る

というやつ。欲望で目をふさがれて、自分の命のことを
深く考えるものなど、ひとりもいない。
 あっという間に、八、九年たち、美猴王はついに
西洋大海の岸辺に出た。

「きっと神仙はこの海の向こうだ」

そう思いつくと、もう一度いかだを組んで、
海に乗り出した。
 こうして流れついたのは西牛賀州。
上陸して旅を続けるうち、高い山に出くわした。
気高い姿で聳え立ち、ふもとには奥深い森が
鎮まりかえっている。
怖いもの知らずの美猴王、ずんずん上って行けば、
奥でなにか声が聞こえる。
誰かが歌をうたっているらしい。

   伐れや伐れ伐れ 山の木を
   売って買え買え うまい酒
   酔って松の根枕 ごろりん
   醒めりゃ又伐れ 山の木を
   町で変えようぜ 米の三升
   気楽なくらしだ やまの中
   出会うは仙人  だけじゃもの

 見ればうたっているのはひとりのきこり。
さては仙人か。美猴王は飛び上がって喜び、
そばに駆け寄った。

美猴王 「仙人さま!弟子にしてください」

き こ り「なんだって、仙人?
      食うや食わずのわしら風情が、
      なんで仙人なもんか。仙人に会いたけりゃ、
      ほれ、あっちの道を行ってみな。 
      斜月三星洞(しゃげつさんせいどう)っていう
      洞府(どうふ)があるだよ。
      そこに須菩提祖師(すぼだいそし)という仙人の
      大先生が、ござっしゃるだ。 三十人ばかり、
      お弟子さんが修行しとるよ」

 きこりに礼を言って別れると、教わったとおりに南へ七、
八里、果たしてひとつの洞府があった。門はぴったり
しまっていて、人影はない。
ふと振り向くと、崖のふちに石碑が建っていて、
大きな字が見えた。

  霊台方寸山 斜月三星洞
  (れいだいほうすんざん しゃげつさんせいどう)

 やっぱりここかと思うと、天にも昇る心地がしたが、
なんだか気後れして、門をたたけない。門前の松に登って
松の実を食べながら、様子を伺っていた。
と、ギーっと洞門がひらいて

「誰だ、いたずらしているのは」

 中から出てきた仙童(せんどう)が、大声をあげた。

美猴王 「ちがうよ!俺、仙術をならいに来たんだ」

仙 童 「ふーん。今先生が、外に修行のものが
      来ているから出てみろって、おっしゃったんだ。
      おまえのことか。それじゃ、ついておいで」

 奥の部屋に案内され、見上げれば、台上に端座する
ひとりの仙人、これぞ須菩提祖師。台の両側には三十人の
弟子が居並ぶ。美猴王はその場にはいつくばり
ペコペコお辞儀を繰り返した。
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# by Seiten_Taisei | 2001-01-19 03:35 | 児・花果山水簾洞の巻

花果山の石猿 (かかざんのいしざる) 3

 こうしてあっというまに数百年。
 ある日、部下を集めて宴会を開いた美猴王、
宴たけなわの頃、突然はらはらと涙を流した。

猿たち 「大王、なにか悲しいことでも?」

美猴王 「いや、こうして楽しんでいても、
      先のことを考えるとな・・・」

猿たち 「何が不足なんです。この別天地で勝手気ままな
      暮らしができる・・・
      こんな幸せはありゃしませんぜ。
      なにをくよくよしているんです」

美猴王 「たしかに。今はいい。だがな、先はどうなる?
      今に老いぼれてくればいつのまにか閻魔大王の
      目にとまってるんだ。寿命が尽きりゃ、お呼びが
      かかるってわけよ。天上界に入れる訳じゃなし、
      無駄に生まれてきたようなもんさ」

 聞いていた猿たちも悲しくなって、おいおい泣いた。
中から飛び出したのは、一匹の通背猿。 (つうはいざる)
この猿は右手左手が一本につながり、背中を通って
右へも伸びれば左へも伸びる。

通背猿 「大王、なかなか深いところに気づかれましたな。
      つまり、悟りを求める心が開けたというわけです。
      それで、閻魔大王のことですがね、今生き物の
      中でおのオヤジの支配を受けないものが
      三つあります」

美猴王 「おまえ、それを知っているのか」

通背猿 「仏、仙人、神、この三つは輪廻ってやつから
      外れてて、生き死にと関係がないんです。
      不生不滅(ふしょうふめつ)、天地と齢(よわい)を
      おなじくするってわけで」

美猴王 「そりゃ、どこに住んでるんだ」

通背猿 「人間世界に、古洞(こどう)や仙山(せんざん)
      というものがありましてな、そこに住んでおります」

美猴王 「よし、すぐに出発だ。
      天の果てだろうと訪ね当てて、不老長寿の術を
      習うんだ。きっと閻魔の手から逃れてみせるぞ」

 ああ、この一言の為に美猴王が、輪廻の網から
飛び出して、ついに斉天大聖となろうとは!
 さて、あくる日は送別会の大宴会。それが終わると、
美猴王はひとりでいかだに乗り込んだ。大海へ漕ぎ出せば、
連日強い東南の風。
やがていかだは南贍部州の岸についた。
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# by Seiten_Taisei | 2001-01-18 10:30 | 児・花果山水簾洞の巻

花果山の石猿 (かかざんのいしざる) 2

 ある焼け付くように暑い朝のこと、石猿は仲間と一緒に
谷川へ水浴びに出かけた。こんこんと絶えまない水の
流れを見て、猿たちは口ぐちに言った。
なに、猿に話ができるかって? 昔から
「島には島のことばがあり、獣にはけものの言葉がある」
というではないか。

猿 達  「この水は、どこから流れてくるんだろう。
      どうせ今日はヒマなんだ。ひとつ水源を
      突き止めてみようぜ」

 ワッと歓声をあげ、老若男女、すべての猿が駆け出した。

 谷川にそって登りつめていくと、やがて、どうどうと
流れ落ちる大きな滝に行き当たった。風にしぶきが
飛び、虹がかかっている。

一の猿 「こりゃあすげぇや。あの山の下が
      トンネルになっていて、海から水が来て
      いるんだぜ」

二の猿 「滝の向こうがどうなっているか、もぐって見てくる
      やつはいないか。無事に帰って来たら、
      そいつが俺たちの王様だ」

 呼びかけること三度、「よし、おれがやる」と言って
飛び出したのは例の石猿。目を閉じ、身をかがめるや、
流れ落ちる滝めがけて躍り込んだ。
・・・ふと目を開け見回せば、あたりに水はなく、
前にくっきりとひとつの橋。気をおちつけて良く見ると、
鉄の橋が奥へと続いている。橋の下を流れてきた水が、
岩のすきまからほとばしり、いったん空中にあがって
滝となって流れて落ちている。そのかげに隠れて
橋の入り口が見えなかったのである。
 橋に登って向こうを見渡せば、そこはまるで人間の
住処(すみか)のよう、なんとも具合がよさそうである。
ピョーンと向こう側に渡って左右を見まわす。
正面に石碑が建ち、大きく楷書体で、こう記されていた。

 花果山福地  水簾洞洞天
 (かかざんふくち  すいれんどうどうてん)

 石猿は、もう嬉しくてたまらない。くるっと身を
ひるがえすと、また水の外へ。

石 猿 「おいみんな、すげえぞ」

猿たち 「中はどんなだった?水の深さは?」

石 猿 「水なんかあるもんか。鉄の橋があるんだ。
      橋の向こうは天然自然の邸宅だぜ」

猿たち 「なに、邸宅?」

石 猿 「滝で橋が見えねえんだ。橋があって、
      その向こうが洞窟になっててな。
      これがまるで邸宅よ。かまど、なべ、おわん、
      寝台、いす、みんな石でできたのが
      揃ってるんだぞ。住むにはもってこいだぜ。
      雨風の心配はいらねえし、
      広さだって充分。千匹は入れらあ」

猿たち 「そりゃいいや。案内してくれよ」

石 猿 「それじゃ、おれに続いて飛び込むんだぞ」

 石猿に続いて、まず大胆な猿、最後には
臆病な猿も意を決して飛び込んだ。
 橋を渡って新天地につくと、猿たちは大はしゃぎ。
おわんをひっぱりあうやら、寝床を取り合うやら・・・。
もうこうなると、猿というやつは始末に負えない。
のべつ幕なし切れ目なし、へとへとに疲れて
やっと静かになった。

石 猿 「さあ、みんな。孔子も言ってるぞ。
      約束を守らないやつは人間じゃないってな。
      さっきみんなはなんて言った?
      滝に飛び込んで無事に出て来たら、
      王様にすると言ったじゃないか。
      どうして俺を王様にしないんだ」

 猿たちはその場にかしこまり、年齢順に一人づつ
進み出て、「大王万歳!」を唱えた。
 こうして石猿は王位に就き、それからは
美猴王(びこうおう)と名乗ることになった。
配下の猿は猿猴(えんこう)、
彌猴(みこう・彌の字がない。原文は獣辺がつく)
馬猴(ばこう)など、それぞれ役につけ位を与えた。
 それからというもの、みんなそろって、朝(あした)は
花果山にあそび、夕(ゆうべ)は水簾洞に眠る、
楽しい暮らし。
空飛ぶ鳥の仲間にも、地を走る獣の仲間にも入らず、
一派を立てて、気ままに日を送った。
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# by Seiten_Taisei | 2001-01-17 08:44 | 児・花果山水簾洞の巻

花果山の石猿 (かかざんのいしざる) 1

太古のむかし、天地ができあがったとき、世界は
東勝神州(とうしょうしんしゅう)、
西牛賀州(せいごかしゅう)、
南贍部州(なんせんぶしゅう)、
北倶蘆州(ほくぐるしゅう)、
この四つにわかれた。

 さて、ここは東勝神州・・・。
 東勝神州の傲来国(ごうらいこく)ちかくの大海に、
ひとつの山がそそりたっている。山の名を花果山という。
そのいただきに、ひとつの石が置かれてあった。
石の高さは三丈六尺五寸。
周囲は二丈四尺。これにはいわれがあって、
それぞれ天周の三百六十五度、こよみの二十四気に
ならったものである。あたりには樹木ひとつなく、
石はふきっさらしのままであった。
 そもそも天地ができあがった時から、石はそこにあって、
天地日月 (てんちじつげつ) の精をあびつづけた。
こうして内部に霊気が蓄えられ、やがてこの石は
生命を宿した。
 ある日、石に割れ目ができて、中から石のたまごが
飛び出し、外気に触れてやがて孵化、ここに一匹の石猿が
生まれた。石の猿とはいえ、目鼻もあれば手足もある。
すぐに動きまわるようになって、天地四方を礼拝した。
 この時、猿の両眼から発した光が天上界に届いた。
驚いたのは天上界を治める天帝。

「あれは、なんであろう。誰か外へ出て、見てまいれ」

 さっそく、千里眼(せんりがん)と順風耳(じゅんぷうじ)の
二将軍が外へ。目を凝らし、耳をすませて下界の様子を
探ると、すぐに戻ってきた。

二将軍 「光が発しましたのは、東勝神州、傲来国の花果山
      でございます。山の石がたまごを生み、猿が
      かえりました。その猿の目の光が天上界に届いた
      のです。猿は普通のえさを食べておりますので、
      ほどなく光は消えましょう」

天 帝 「下界のものは、すべて天地の精華(せいか)から
      うまれたのじゃ。ほうっておけばよかろう」

 こうして天帝の慈悲を受けた石猿、
山の猿の仲間に入って、のんびりと、
月日のたつのも知らずに暮らすようになった。
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# by Seiten_Taisei | 2001-01-16 17:25 | 児・花果山水簾洞の巻