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悟空の修行 (ごくうのしゅぎょう) その5

  猿  「大王、どんなに待ったか知れねえぜ。
      俺たち、ひでえ目に遭っているんだ。
      妖怪が一匹出てきやがって、そいつが、俺たちの
      水簾洞を横取りしようとしやがる。
      俺たち命懸けで闘ったけど、
      家財道具はかっぱらわれるし、
      子猿も随分連れてかれちゃったんだ。
      大王が来てくれなかったら、
      水簾洞は危なかったぜ」

悟 空 「どんな妖怪だ。すぐ、仇をとってやるぞ」

猿 達 「混世魔王(こんせいまおう)とか言ってたよ。
      まっすぐ北の方から来るんだけれど、
      いつも雲や霧を起こしちゃ来やがるんで、
      詳しい場所は わからないんだ」

悟  空「よし、もう心配するな。俺が突き止めてやる」

 トンボ返りをうつと、北へまっしぐら。
見れば下には嶮しい山がそびえている。
雲からおりれば、山の彼方に水臓洞(すいぞうどう)
という洞門があった。
門の前では妖怪の手下が二、三匹跳ね回っていたが、
悟空を見つけて、奥に注進に及ぶ。
 やがて姿を現した混世魔王。

「どいつだ、水簾洞の親玉は?」

悟 空 「でけえ目をしやがって、
      この孫さまが見えないのか」

混世魔王「わっはっは、なんだ、こんなチビか。
      まだ子供だろう。武器も持たずに、
      この俺様に歯向かおうっていうのか。
      よしよし、俺も刀はやめにしよう」

悟 空 「よし、こい」

 魔王が身構えて打ちかかれば、
悟空は胸元に飛び込んで、打ちつ打たれつの接近戦。
こうなると小さい方が有利で、
悟空のパンチがビシビシ決まる。
 魔王、たまらずに、足元の刀を拾い上げ、
まっこうから打ちかかった。
ひらりと身をかわした悟空。からだから、
ひとつまみ毛を抜くと、口に入れて噛み砕き、
空に向かってプッと吹いて

「変われ!」

と、ひと声。毛はたちまち二、三百の小猿に変わり、
魔王を取り囲んだ。これぞ分身の術。
悟空の体の八万四千本の毛は、一本一本、
悟空が「なれ」というものに変わる。
道をおさめた悟空には、こういう新能力が備わっていた。
 この小猿たちがまたすばしっこい。
ひょいひょいと刀をくぐって、魔王にとびつく。
股ぐらにもぐる、足をひっぱる、目玉をほじくる、
鼻をひねる。
よってたかって、ひっくり返し、ふくろだたき。
 ここで悟空が近寄って、魔王の刀を取り上げる。
小猿をどかせて、脳天へ一太刀浴びせれば、
魔王はまっぷたつ。勢いに乗って
洞門の中へなだれ込み、手下の妖怪どもを、
きれいさっぱり片付けた。
 さて、ぶるっとからだの毛をふるうと、小猿たちは、
毛になって、悟空のからだに戻る。ところが見ると、
まだ四、五十匹残っているのがいる。
これは水簾洞から魔王にさらわれてきた子猿だった。

子 猿 「大王、来るときは、
      耳元でぴゅーって音がしたら、
      もうここについていたんで、
      道がわからないんだよ。
      帰りはどうすればいいだろう」

悟 空 「心配するな。目をつむってるんだ」

 呪文をとなえて、雲を起こし、風とともに水簾洞へ。

悟 空 「みんな、目をあけろ」

 猿たちは、そこが故郷であるのに気づくと大はしゃぎ、
出迎えた猿たちと、再会を喜びあった。
酒さかなを用意して、さっそく祝賀会。

猿 達 「大王、いったいどこで、
      あんな術をおぼえてきたんです」

悟 空 「西牛賀州で運よく、
      ひとりの老先生に出会ってな、
      修行したおかげで、天と寿命が同じになって、
      不老長寿の術を授かったのだ。
      それからおまえたち、
      ひとつ、めでたいことがある。
      われわれには、孫という姓ができたぞ」

猿 達 「それじゃ、大王も俺たちも、
      みんな孫っていうわけですね」

 一同、大喜びで、ヤシ酒やブドウ酒をくみかわした。
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by seiten_taisei | 2001-02-25 00:00 | 児・花果山水簾洞の巻

悟空の修行 (ごくうのしゅぎょう) その4

悟 空 「それじゃあ先輩、なんに化けたらいいか、
      ひとつ課題を出してください」

弟子達 「松の木はどうだい」

 悟空は印(いん)を結び、呪文を唱えた。
身体をひとゆすり、たちまち一本の松の木に変わった。
一同、やんや、やんやの大喝采。と、そのとき

「誰だ、騒いでおるのは」

 奥から杖をついて出てきたのは須菩提祖師。
弟子たちは、みんなあわてて、真面目な顔をとりつくろう。
悟空ももとの姿に戻ってみんなの中にまぎれこみ、

「申し上げます。ただいま、みんなで議論をしておりました」
 
祖  師 「何をいうか。ワイワイガヤガヤ、
      それで修行ができるか。
      いったい何を騒いでおったのじゃ」

弟子達 「じつは、悟空が松にばけましたので、
      みんなで拍手喝采をしました」

 これを聞くと、須菩提祖師は弟子達をさがらせ、
悟空を呼び寄せた。

祖 師 「どうして、そんなことをしたのじゃ。
      術というものは、滅多なことで、人に
      見せるものではない。
      見れば誰でも教わりたくなるし、
      教えなければ無理にも教わろうとする。
      ついには危害を加えたりするのじゃ。
      それでは命をまっとうすることは難しくなる」

悟 空 「先生、どうかお許しください」

祖 師 「おまえを責めておるのではないが、
      こうなっては、おまえの命が危ない。
      ここに留まるわけには、いくまい」

 言われて悟空、涙をポロポロ流した。

「先生、どこへ行けとおっしゃるんです」

祖 師 「来たところへ、戻ればよかろう」

悟 空 「来たところ?あっ、そうだ。
      わたしは東勝神州の傲来国、
      花果山水簾洞から来たのでした」

祖 師 「早く、そこへ帰るのだ。
      いのちをまっとうするがよい。
      だが、よいか。これだけは、忘れてはならぬぞ。
      ここを去ってからのち、
      わしの弟子であったなどと、ひとことなりと
      申してはならぬ。口を滑らせば、
      わしにはすぐわかるのじゃ。
      おまえの皮をはぎ、骨を砕き、たましいを
      地底の彼方へ追いやって、
      絶対生まれ変わらぬようにしてやるぞ」

悟 空 「はい。けっして先生のお名前は出しません」

 こうして一同に別れを告げた悟空は、
觔斗雲に乗って、一路、東へ向かった。
 ひとときも経たぬうち、下に花果山水簾洞が見えてきた。
二十年まえ、ここを出たときは、
凡骨凡体(ぼんこつぼんたい)、
何のかわりばえもしない普通のからだ、
それがいまや道を得て、軽々と空を飛んでいる。
悟空はたまらなく愉快だった。
 雲をおろして着陸し、山へ入って行くと、
どうしたことだろう、
猿たちの悲しげな声が聞こえる。

悟 空 「おーい、今帰ったぞ」

 声をかけると、岩あな、草むら、林のなか、
ありとあらゆるところから、大猿小猿が何千となく
あらわれて、悟空のまわりに集まった。
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by seiten_taisei | 2001-02-20 00:00 | 児・花果山水簾洞の巻

悟空の修行 (ごくうのしゅぎょう) その3

祖 師 「どうだ悟空。ものになったか」

悟 空 「おかげさまで。
      もう雲に乗って飛べるようになりました」

祖 師 「ほう。ひとつ見せてもらいたいものじゃ」

 待ってましたと悟空、
トントントーンと連続宙返りを打ちながら
空中に飛び上がる。五、六丈の高さにのぼって、
あたりにたなびく雲に乗ると、ほんの一服のあいだに、
三里ほどを往復してみせた。

悟 空 「これが雲に乗る術です」

祖 師 「はっはっは。
      それでは雲に這い上がった程度じゃ。
      一日のうちら全世界をひとまわり
      するようでなければ、雲に乗ったとは言えん」

悟 空 「そりゃ、無理というもんです」

祖 師 「成せば成る。何事もこころがけしだいじゃ」

悟 空 「お願いです。乗りかかった舟って
      いうじゃありませんか、どうせなら、
      全部教えてくださいよ!」

祖 師 「よかろう。今見ていると、
      おまえはトンボ返りをしながらのぼっていった。
      あのやり方なら觔斗雲(きんとうん)の術が
      いいだろう。 
      觔斗というのは、宙返りのことじゃよ」

 悟空を呼び寄せ、なにやらムニャムニャ秘法を授けて、

「この雲は、宙返り一回で、一万八千里飛べるぞ」

これを聞いた弟子たちは、みな口々にうらやましがった。

「いいなぁ、悟空。その雲を使って飛脚でもやれば、
食いっぱぐれないぜ」

 その夜のうちに、悟空は觔斗雲の術を会得して、
それから毎日、自由自在に飛び回った。
 ある日、弟子一同が松の木陰で議論をしていたとき、

弟子達 「悟空、おまえ、
      先生からいろいろ教わったようだが、
      できるようになったかい」

悟 空 「ええ、おかげさまで。
      わたしも一生懸命やったんで、
      まあ、ひととおり・・・」

弟子達 「ちょうどいいや、じゃあ、やってみせてくれ」

 こう言われて悟空、いささか得意になった。
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by seiten_taisei | 2001-02-19 04:50 | 児・花果山水簾洞の巻

悟空の修行 (ごくうのしゅぎょう) その2

 須菩提祖師は、悟空を三度打った。
これは三更(さんこう・真夜中のころ)の頃来いという意味。
両手を後ろに回して奥に入り、扉を閉めてしまったのは
裏門から入って来いという意味。だれもいないところで
教えてやろうという意味、そういう意味だったのである。
 やっとのことで、夕暮れになる。悟空はみんなと一緒に
寝床に入り、眠ったフリをして夜中を待った。
山の奥のことて時計もない。
吸う息、吐く息で時間をはかり、そろそろ真夜中というころ、
こっそり起きだして裏門へまわり、須菩提祖師の寝室へ。

祖 師 「この猿めが!何をしにきた。
      向こうで寝ておれっ!」

悟 空 「昨日先生が真夜中に裏門から入って来い、
      そうおっしゃったと思いましたもんで。
      ずうずうしいかと存じましたが、
      こうしてやってきました」

 この返事を聞いて須菩提祖師、
心中ひそかに喜んだ。
・・・あの謎が解けたか。してみるとこいつ、
やはり天地から生まれたに違いない。

祖 師 「どうやら、おまえには縁があるようだ。
      よろしい、ではそばに寄って、よく聞け。
      今から不老長寿の秘訣を授けてつかわす」

  悟空は、寝台の前にひざまずいて、
じっと耳を澄ました。
  こうして悟空は、不老長寿の秘法を授かった。
外に出れば、東の空は、かすかに白くなっている。
そっと部屋へ戻ると、

悟 空 「朝だぞ!起きろっ!」

 寝台をゆすって、みんなを起こした。
悟空が出かけていったことに、気づいたものは、
誰もいなかった。
 それから三年。
 ある日須菩提祖師が、久しぶりに講義をおこなった。
その講義の途中のこと。

祖 師 「悟空は、どこにいる」

悟 空 「ここにおります」

祖 師 「どうだ。少しは修行が進んだか」

悟 空 「ええ、そろそろ卒業できるんじゃないかと・・・」

祖 師 「ふーむ。そういうことなら、次は三つの災いに
      気をつけることじゃ」

悟 空 「三つのわざわい?そりゃ先生、何かの
      間違いでしょう。道をさとり、徳を積めば、
      天と寿命が同じになり、病気もしないはずです。
      災いなんかが起きるわけありませんよ」

祖 師 「ふつうはそうだ。だがな、
      おまえは天地日月(てんちじつげつ)のはたらきに
      逆らって修行をしているのだから、
      そうはいかない。五百年後には、
      天はかみなりをくだしておまえをうつ。
      さらに五百年後には、火の災いが降りかかる。
      これは陰火といって、この火に焼かれれば、
      五臓は灰となり、手足はボロボロとなって、
      千年の苦行も夢に終わる。
      さらに五百年経つと、今度は風の災いだ。
      この風は贔風(ひふう)といって、
      からだの穴という穴から吹き込んで、
      骨も肉も溶かしてしまう」

 悟空は恐ろしさに震え上がり、その場にひれ伏した。

悟 空 「先生、お願いです。その災いから逃れる方法を
      教えてください」

祖 師 「よかろう。だが、この秘法はな、三十六通りと
      七十二通りと、二種類あるが、
      どちらがよいかな」

悟 空 「どうせなら、多い方でお願いします」

祖 師 「ちこうまいれ」

 悟空の耳元で、なにやら、ぶつぶつと呟いた。
どんな秘法を授けたのか、それは誰にもわからない。
しかし、一を聞いて百を知る悟空のこと、
たちまちのうちに七十二通りの変化(へんげ)を
会得してしまった。
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by seiten_taisei | 2001-02-14 09:24 | 児・花果山水簾洞の巻

悟空の修行 (ごくうのしゅぎょう) その1

 悟空は名前をもらって大喜び、それからというもの、
毎日熱心に修行に励んだ。礼儀作法、お経の勉強、習字、
そのあいまには畑を耕し、たきぎを拾い、水を汲む。
こうしてあっという間に六、七年たった。
 そして、ある日のこと。
 この日、三星洞では須菩提祖師の講義があって、
悟空も兄弟子たちに加わり、すみで耳をかたむけていた。
ところが聞いているうちに、妙にこころがウキウキしてきた。
じっとしていられなくなって、はじめは頭をかいたり、
耳をひっぱったりしていたが、
とうとうその場でおどりだした。

祖 師 「これこれ悟空、何を踊っておる。
      ちゃんと話を聞いたらどうじゃ」

悟 空 「いえ、ちがうんです。聞いているうちに、
      なんだかこう・・・先生の声が、とてつもなく
      素晴らしく聞こえてきたんで・・・。つい、浮かれて
      踊りだしちゃったんです。どうもすみません」

祖 師 「ほう。そんなふうに聞こえたか。
      それは大進歩じゃ。おまえはここに来て
      どれほどになるか」

悟 空 「さあ、どうも時間には弱いもんで・・・。
      そうそう、裏山に桃の木があります。
      あの桃の実がなるたびに、食べあきるほど
      食べますが そんなことが今までに
      七回ありましたっけ」

祖 師 「すると、もう七年じゃな。
      で、おまえは何を学びたいのかな」

悟 空 「道に関係あることなら、なんでもいいです」

祖 師 「ひとくちに道を学ぶと言っても、
      入り方はいろいろだ。傍門(ぼうもん)といってな、
      横の門が三百六十ある。どれを選んでも悟りに
      到達できるが、おまえはどの門がいいのじゃ?」

悟 空 「教えてもらえれば、なんでもやります」

祖 師 「それでは、流門(りゅうもん)はどうかな」

悟 空 「それはどういうものです?」

祖 師 「流門の中には、儒家、仏家、道家、陰陽家、
      墨家などがある。お経をあげたり、
      念仏をとなえたりするのじゃ」

悟 空 「それをやれば、不老長寿になれますか?」

祖 師 「流門を学んで不老長寿になろうとする。
      これは、壁の中の柱じゃ」

悟 空 「なんです、そのかべのなかの
      はしらっていうのは?」

祖 師 「家を建てるとき、これを頑丈にしようというので
      壁の中に柱を立てる。だが、やがて家が
      倒れてみれば、柱はきまって腐っておる」

悟 空 「なーるほど。長持ちしないってわけですね。
      では、やめておきます」

祖 師 「それでは、動門はどうじゃ」

悟 空 「そりゃ、なんです?」

祖 師 「陰を採って陽を補う、というやつじゃ。
      そのために、身体を鍛えたり、
      薬を練ったりする」

悟 空 「それで、不老長寿になれますか?」

祖 師 「動門を学んで不老長寿を得んとする。
      これ水中に月をすくうがごとし、じゃな」

悟 空 「また、なぞなぞですね。わかりません」

祖 師 「月が大空(たいくう)にかかれば、
      水にかげがうつる。だが、目に見えても、
      これをすくいとることはできない。
      つまり、骨折り損というわけじゃよ」

悟 空 「そいつも、ごめんこうむります」

  とたんに須菩提祖師、台から飛び降りて、
悟空を一喝した。

「こらっ!猿のくせに何をなまいきなことをいうか!
あれもいや、これもいや、
いったい何がいいというのだ」
 近寄りざまに、手にした竹箆(しっぺい・竹冠の下に内、
その下に比と書く、へら、という意味の漢字)で
悟空の頭をピシピシピシと三べん打つと、
両手を後ろに回して奥へ入り、扉を閉めてしまった。

弟子たち 「この馬鹿ザル!
      とうとう先生を怒らせてしまったな。
      こんどはいつ講義をしていただけるかわからんぞ」

 さんざん悪態をつかれたが、悟空はけろりとして、
嬉しそうに笑うだけ。それというのも、悟空には、
ちゃんとわかっていたからだ・・・。
 須菩提祖師は、悟空を三度打った。
これは三更(さんこう・真夜中のころ)の頃来いという意味。
両手を後ろに回して奥に入り、扉を閉めてしまったのは
裏門から入って来いという意味。
だれもいないところで教えてやろうという意味、
そういう意味だったのである。
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by Seiten_Taisei | 2001-02-13 20:11 | 児・花果山水簾洞の巻