カテゴリ:児・花果山水簾洞の巻( 15 )

如意金箍棒 (にょいきんこぼう) その5

 さて、話変わって、こちらは全世界に君臨する天帝。
 ある日、霊霄殿(れいしょうでん)で政務をとっていると、

臣 下 「東海竜王が上奏文を持って、
      おめどおりを願っています」

天 帝 「よろしい。ここへ通しなさい」

 東海竜王が入ってきて、上奏文を差し出す。
それには、悟空が竜宮へやってきて、
武器とよろい兜を無理矢理奪って行った件が
しるしてあって、最後に

「どうか天兵をつかわして、あの化け物を退治し、
平和を取り戻して戴く様、心よりお願い致します」

と結んである。

天 帝 「帰って待つがよい。朕(ちん)が
      将(しょう)をつかわして捕らえるであろう」

 東海竜王が帰ると、天帝はそばのものに尋ねた。

天 帝 「そのバケ猿は、いつ生まれ、何代をへて、
      そのような術を身につけたのか」

 千里眼(せんりがん)と順風耳(じゅんぷうじ)が
進み出て、

「この猿は三百年前に生まれた石猿です。
大したやつではなかったのですが、いつのまにか
仙術をおさめ、あばれまわっているもののようです」

天 帝 「では、誰を征伐につかわせばよいか」

 この時太白金星(たいはくきんせい)がすすみでた。

「おそれながら申し上げます。その猿も、
仙術をおさめたうえは人間とかわりはございません。
慈悲をお与えくださいますよう。
武力でおさえつけるのではなく、天上界に呼び寄せては
いかがなものでしょう。適当な官職につけたうえ、
天命に従うならば賞を与え、もし天命にそむくようでしたら、
そのときこそ、ひっとらえるまでのこと」

天 帝 「なるほど。ではおまえが使者になるがよい」

 命をうけた太白金星、南天門の外で雲に乗り、
まっすぐ花果山水簾洞にやってきた。
門のそとにいた小猿たちにむかって

「これこれ、わしは天から参った使いじゃ。
天帝の手紙を持っておる。天帝はおまえたちの
大王をお召しになったのだ。さぁ、早く取り次ぎなさい」

 その小猿が次の小猿へ、
次の小猿がその次の小猿へ、
順ぐりに伝えていって、一番奥の小猿が悟空に取り次ぐ。

「大王、門の外に年寄りが来て、天帝の使いで
大王を呼びに来たって、言ってますよ」

悟 空 「そいつはいいや。ちょうど天に
      遊びに行きたいと思っていたとこだ。
      すぐ、通してくれ」

 いそいで正装して迎えに出る。
 太白金星はずいと、中に入ると、上座について、
おごそかな口調で、

「われは西方の太白金星であるぞ。
天帝のみことのりを奉じ、なんじを天上界に召しに参った」

悟 空 「ありがたきしあわせ。……これ、おまえたち、
      宴会のしたくをしろ」

金 星 「いや、おかまいくださるな。
      きょうは天帝のお使いじゃから、長居はできん。
      さっそく同道ねがいたい」

 そこで悟空は、長老猿を呼んで、

「あとのことは頼んだぞ。
おれはちょっと天上界の様子を見てくる。
後でおまえたちも連れて行くからな」

 こうして悟空と太白金星は、それぞれ雲をおこし、
はるか空の上へとのぼっていった。
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by seiten_taisei | 2001-03-31 11:58 | 児・花果山水簾洞の巻

如意金箍棒 (にょいきんこぼう) その4

 さて、水簾洞へ引き上げた悟空は、
手下の猿にかこまれて、上機嫌だった。
猿たちは、如意棒を持ち上げようとするが、
トンボが鉄柱に止まったようなもので、
びくともしない。

猿たち 「すげえなあ、こんな重いもの、
      どうやって持ってきたんだい」

 悟空はそばへ寄って
ひょいと持ち上げてみせ

「この宝も、これまで持ち主に巡り会えなかったのさ。
竜王は、鉄の塊だと思って何千年も蔵の中に転がしといた。
ところが、今度おれが行ったら、その鉄が
ぴかぴか光り出したってわけだ」

 ひととおり、いきさつを説明すると、
次に実演をやってみせた。

悟 空 「ちいさくなれ、ちいさくなれ」

 棒はたちまち、縫い針ほどの大きさになる。
悟空はそれを耳の中にしまった。
猿たちの拍手喝采に応えてもう一度取り出し、
こんどは手のひらに乗せる。

悟 空 「おおきくなれ、おおきくなれ」

 針はぐんぐん伸びてたちまちもとの鉄棒になる。
悟空はすっかり夢中になって、橋を渡り水簾洞の外へ
飛び出した。 
 棒を手にして神通力を使いながら「のびろ!」とひと声。
悟空の身体は、みるみる一万丈の高さ。
振り仰げば頭は泰山(たいざん)と見まごうばかり。
腰のあたりは、けわしい峰を思わせる。
目は稲妻、ぱっくり開いた口に、つるぎのような歯が並ぶ。
手にした棒はといえば、上は天に、
下は地獄にとどかんばかり・・・。
花果山の動物たちも、妖怪も妖王も、
ふるえおののきながら、この姿を伏し拝むのだった。
 悟空はすぐにもとの姿にもどり、
棒は縫い針にして耳にしまって、水簾洞に戻った。
全山の妖王が祝賀にかけつけ、
飲めやうたえの大宴会となった。
 その後、悟空は、水簾洞のことは
四匹の長老猿に任せることにした。
すなわち、二匹の赤尻猿は馬元帥(ばげんすい)と
流元帥(るげんすい)、
二匹の通背猿は崩将軍(ほうしょうぐん)と
芭将軍(はしょうぐん)、それぞれ位につけて、
軍事、賞罰をこの四匹に代行させ、
四健勝(しけんしょう)と呼ぶことにした。
そして、自分はこまごまとした雑用をはなれて勝手きまま、
西へ東へ、雲を飛ばしては、英雄、豪傑、賢才と
交わりをむすんだのであった。
なかでも、つぎの六人、 牛魔王(ぎゅうまおう)、
蚊魔王(こうまおう)、鵬魔王(ほうまおう)、
獅駝王(しだおう)、瀰猴王(みこうおう/ 瀰 は、
さんずい ではなく けものへん)、
偶戎王(ぐしゅうおう/戎 は、けものへん がつく) とは、
義兄弟のちぎりをむすび、
これに美猴王 (びこうおう・悟空のこと) を加えた
七兄弟は、毎日集まっては話し合い、
酒を酌み交わしたのである。
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by seiten_taisei | 2001-03-21 21:22 | 児・花果山水簾洞の巻

如意金箍棒 (にょいきんこぼう) その3

 そこへ現れたのは、竜王の夫人と娘。
竜王に近づいて、

「ねぇ王様、奥の蔵に神珍鉄(しんちんてつ)が
しまってあるでしょ。ほら、天の河(あまのがわ)の
底がために使うっていう・・・。 
あれが二、三日前からぴかぴか光を出して、
瑞気がたちのぼっているのよ。ひょっとして、
このお方を待っていたのじゃないかしら」

竜 王 「あれはおまえ、むかし、禹(う)が
      洪水を治めたとき、海の深さを測るのに使った
      おもりだよ。 鉄のかたまりでは、
      武器の役にはたたないだろう」

夫 人 「かまわないわよ。ともかくあげちゃって、
      勝手にさせたらどう?
      こちらはお引取り願えれば、
      それでいいんですから」

それではと、竜王が悟空に話をする。

悟 空 「ここへ出してもらいたいな」

竜 王 「とてもとても、動かせるようなものではない。
      ご自分で行かれるがよろしい」

悟空「どこだい? 案内してくれよ」

 蔵に行ってみると、なるほど、
金色の光がいっぱいにみなぎっている。
 光を出しているのは、一本の鉄柱、
太さは一斗升ほど、長さは二丈あまりである。
悟空は、そでをまくりあげて近寄ると、
両手でそれをたたいてみた。

悟 空 「もう少し細くて短いといいんだけどな」

つぶやいたとたんに、鉄柱はするするとちぢまった。

悟 空 「まだちょっと太すぎるな」

ゆすりながら言ってみると、すーっと細くなる。
悟空は大喜びで、蔵からだして念入りに眺めてみた。
真っ黒な鉄棒の両端に、金のたががはまっていて、
そのそばに文字が彫ってある。

 如意金箍棒、重さ 一万三千五百斤

悟 空 「如意か。なるほど意の如しだ。
      この棒は、おれの考えどおりの太さになるんだな」

 歩きながら、手でゆさぶって

「短くなれ、細くなれ」

鉄棒は長さ二畳、太さはおわんくらい、
ちょうど手ごろの大きさになる。
その如意棒をびゅんびゅん振り回しながら、悟空は
水晶宮に戻ってきた。竜王や家来たちは、
びくびくしながらそれを見ている。

悟 空 「こいつはいいや、どうもありがとさん。
      だけど、こうなると身なりが合わないな。
      ついでのことに、よろいかぶと一式を戴きたい」

 無理難題をふっかけられて、竜王は大よわり、
しかたなしに弟を呼び寄せた。
弟というのは、南海竜王、北海竜王、西海竜王の
三人である。
はなしを聞いて西海竜王、

「にいさん、ここはおとなしく聞いてやろう。
あとで天帝に訴えれば、きっととっちめてくれますよ」

そこで北海竜王が歩雲履(ほうんり)というくつ、
西海竜王が黄金のよろい、南海竜王が紫金の冠、
それぞれを持ち寄って、悟空に差し出した。
悟空は大喜びで着用におよぶと、
如意棒をふりまわしながら

「それじゃ、あばよ」

 悟空が帰っていくと、竜王たちは訴状を作り、
天帝におそれながらと訴え出たが、それは後日の話。
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by seiten_taisei | 2001-03-20 01:43 | 児・花果山水簾洞の巻

如意金箍棒 (にょいきんこぼう) その2

 あくる日、全山の猿に集合命令を出すと、
あつまった猿はなんと四万七千匹。
これがみんな武器を持って並んだのだから、
驚いたのはほかの動物の妖王(ようおう)。
花果山には、オオカミ、虎、ヒョウ、シカ、キツネ、タヌキ、
ムジナ、獅子、象、ショウジョウ、熊、カモシカ、その他、
あわせて七十二種類の妖王がいたが、
みな悟空のところへ飛んできて、服従を誓った。
 それからというもの、妖王たちも太鼓を鳴らし、
旗を立てて、鎧に身をかためて、訓練に加わった。
花果山は毎日ドンドン、ジャンジャンの大騒ぎである。
 悟空は大満足だったが、そのうちに、ふと思いついた。

悟 空 「みんな、弓もやりもうまくなったな。
      だがおれの刀はどうも使いにくい。
      なんとかならんもんかな」

長 老 「いまや大王は神仙(しんせん)の身、
      普通の武器では役に立ちません。
      そこで大王、ひとつお伺いしたいが、
      大王は水にもぐれますかな」

悟 空 「もちろんだ。天にものぼれば、
      地にももぐる。水にもおぼれないし、
      火にも焼けない。どこへだって行けるぞ」

長 老 「それなら、竜王をたずねて行けばよろしい。
      水簾洞の水は、東海の竜宮まで
      通じております。あそこへ行けば、
      何かお気に召すものが見つかるかと
      思いますが」

 さっそく橋の上から水に飛び込む。
閉水(へいすい)の術を使って水をおしわけながら、
東海の底へ。
おりからパトロール中の竜宮の警備兵が声をかけた。

「いずれの神仙でござる。お名乗りあれば、
ご案内いたそう」

悟 空 「花果山の孫悟空だよ。
      竜王とは隣同士だぜ。知らねぇって言うのかい?」

あわてて警備兵が報告に戻る。
東海竜王は、悟空を水晶宮(すいしょうきゅう)に
迎え入れた。

竜 王 「ようこそ、おいでなされた。
      して、ご用のむきは?」

悟 空 「山洞(さんどう)を守らなきゃならねぇんだが、
      あいにくと、ろくな武器がなくてね。
      ここなら何しろ竜宮だ。 
      余分にあるに違いないっていうんで、
      戴きに参上したわけですがね」

竜王も断るわけにいかず、
ひとふりの太刀を持ってこさせた。

悟 空 「どうも刀ってやつは苦手なんで。
      ほかのものがいただきたい」

こんどは家来が二人がかりで、なにやら担ぎだしてくる。
これは九股叉(きゅうこさ)といって、先が九本に分かれた
フォークのばけものみたいなやつ。
悟空はひょいと受け取って、ひとふりくれると、
ポーンと投げ出した。

悟 空 「こりゃ、軽すぎらぁ」

竜 王 「えっ、なんと! 
      これは三千六百斤もあるのですぞ」

悟 空 「いや、お話になりませんな」

竜王も、これには驚いた。びくびくしながら
家来に命令する。やがて、担ぎ出されたのは
方天戟(ほうてんげき)といって、枝付きのほこ。
これは重さが七千二百斤ある。
走りよって受け取った悟空、
そいつをびゅうびゅう打ち振って、ドンとつき立てた。

「まだまだ軽い」

竜 王 「ややや、これが一番重いというのに!
      竜宮には、これ以上のものはありませんぞ」

悟 空 「いやいや、ごけんそん。
      昔から、宝物なら竜宮っていうくらいなもの。
      もっとよく探してもらいたいね。
      いいのがありゃ、金は払うから」

竜 王 「いや、ほんとうにもうないのだ」
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by seiten_taisei | 2001-03-17 10:33 | 児・花果山水簾洞の巻

如意金箍棒 (にょいきんこぼう) その1

 混世魔王を退治してから、悟空は、
猿たちの軍事訓練を始めた。
小猿たちに木や竹で武器を作らせると、旗や笛を合図に、
猿の兵隊を進ませたり、退かせたり。
だが、しばらくやっているうちに、だんだん不安に
なってきた。

悟 空 「うっかりすると、ほんとうに戦争になるかも
      しれんぞ。人間かけものか、どれかが
      先手をうって攻めてくるかもしれないからな。
      そうなったら、こんな木や竹の武器じゃ
      かないっこない。さてどうしたもんだろう」

 そこへ、赤尻猿(あかしりざる)二匹、
通背猿(つうはいざる)二匹、あわせて四匹の
長老が進み出た。

「大王、武器を手に入れるのはわけもないことです。
東へ二百里も行けば、傲来国、
その都には軍隊が駐屯しております。
 きっと武器を作る職人もおりましょう。
そこへ行かれて武器を買うなり
作らせるなりなさればよろしい」

 悟空は觔斗雲に飛び乗って、ちょいとひと飛び。
都に着くと術を使って傲来国の武器庫に入り込む。
刀、やり、剣、げき、斧、まさかり、鎌、むち、弓、
いしゆみ、ほこ・・・。なんでも揃っている。

悟 空 「こいつはいいや、全部いただきだ。
      だけど、ひとりで運ぶのは面倒だな」

ことつかみ毛を引き抜き、くちゃくちゃかんで、
ぷっと吐き出す。千匹以上の小猿が現れ、
次々に武器を運び出す。たちまち武器庫は
からっぽになった。
まるごと雲に乗せて、一気に水簾洞に戻る。
ぶるっとゆすって毛をからだにつけ、武器を積み上げた。

悟 空 「さあみんな、とりにこい」

 猿たちは、わっと駆け寄り、
てんでに刀や弓を手に取る。
いろんな武器をいじくりまわすうちに、その日は暮れた。
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by seiten_taisei | 2001-03-16 20:40 | 児・花果山水簾洞の巻

悟空の修行 (ごくうのしゅぎょう) その5

  猿  「大王、どんなに待ったか知れねえぜ。
      俺たち、ひでえ目に遭っているんだ。
      妖怪が一匹出てきやがって、そいつが、俺たちの
      水簾洞を横取りしようとしやがる。
      俺たち命懸けで闘ったけど、
      家財道具はかっぱらわれるし、
      子猿も随分連れてかれちゃったんだ。
      大王が来てくれなかったら、
      水簾洞は危なかったぜ」

悟 空 「どんな妖怪だ。すぐ、仇をとってやるぞ」

猿 達 「混世魔王(こんせいまおう)とか言ってたよ。
      まっすぐ北の方から来るんだけれど、
      いつも雲や霧を起こしちゃ来やがるんで、
      詳しい場所は わからないんだ」

悟  空「よし、もう心配するな。俺が突き止めてやる」

 トンボ返りをうつと、北へまっしぐら。
見れば下には嶮しい山がそびえている。
雲からおりれば、山の彼方に水臓洞(すいぞうどう)
という洞門があった。
門の前では妖怪の手下が二、三匹跳ね回っていたが、
悟空を見つけて、奥に注進に及ぶ。
 やがて姿を現した混世魔王。

「どいつだ、水簾洞の親玉は?」

悟 空 「でけえ目をしやがって、
      この孫さまが見えないのか」

混世魔王「わっはっは、なんだ、こんなチビか。
      まだ子供だろう。武器も持たずに、
      この俺様に歯向かおうっていうのか。
      よしよし、俺も刀はやめにしよう」

悟 空 「よし、こい」

 魔王が身構えて打ちかかれば、
悟空は胸元に飛び込んで、打ちつ打たれつの接近戦。
こうなると小さい方が有利で、
悟空のパンチがビシビシ決まる。
 魔王、たまらずに、足元の刀を拾い上げ、
まっこうから打ちかかった。
ひらりと身をかわした悟空。からだから、
ひとつまみ毛を抜くと、口に入れて噛み砕き、
空に向かってプッと吹いて

「変われ!」

と、ひと声。毛はたちまち二、三百の小猿に変わり、
魔王を取り囲んだ。これぞ分身の術。
悟空の体の八万四千本の毛は、一本一本、
悟空が「なれ」というものに変わる。
道をおさめた悟空には、こういう新能力が備わっていた。
 この小猿たちがまたすばしっこい。
ひょいひょいと刀をくぐって、魔王にとびつく。
股ぐらにもぐる、足をひっぱる、目玉をほじくる、
鼻をひねる。
よってたかって、ひっくり返し、ふくろだたき。
 ここで悟空が近寄って、魔王の刀を取り上げる。
小猿をどかせて、脳天へ一太刀浴びせれば、
魔王はまっぷたつ。勢いに乗って
洞門の中へなだれ込み、手下の妖怪どもを、
きれいさっぱり片付けた。
 さて、ぶるっとからだの毛をふるうと、小猿たちは、
毛になって、悟空のからだに戻る。ところが見ると、
まだ四、五十匹残っているのがいる。
これは水簾洞から魔王にさらわれてきた子猿だった。

子 猿 「大王、来るときは、
      耳元でぴゅーって音がしたら、
      もうここについていたんで、
      道がわからないんだよ。
      帰りはどうすればいいだろう」

悟 空 「心配するな。目をつむってるんだ」

 呪文をとなえて、雲を起こし、風とともに水簾洞へ。

悟 空 「みんな、目をあけろ」

 猿たちは、そこが故郷であるのに気づくと大はしゃぎ、
出迎えた猿たちと、再会を喜びあった。
酒さかなを用意して、さっそく祝賀会。

猿 達 「大王、いったいどこで、
      あんな術をおぼえてきたんです」

悟 空 「西牛賀州で運よく、
      ひとりの老先生に出会ってな、
      修行したおかげで、天と寿命が同じになって、
      不老長寿の術を授かったのだ。
      それからおまえたち、
      ひとつ、めでたいことがある。
      われわれには、孫という姓ができたぞ」

猿 達 「それじゃ、大王も俺たちも、
      みんな孫っていうわけですね」

 一同、大喜びで、ヤシ酒やブドウ酒をくみかわした。
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by seiten_taisei | 2001-02-25 00:00 | 児・花果山水簾洞の巻

悟空の修行 (ごくうのしゅぎょう) その4

悟 空 「それじゃあ先輩、なんに化けたらいいか、
      ひとつ課題を出してください」

弟子達 「松の木はどうだい」

 悟空は印(いん)を結び、呪文を唱えた。
身体をひとゆすり、たちまち一本の松の木に変わった。
一同、やんや、やんやの大喝采。と、そのとき

「誰だ、騒いでおるのは」

 奥から杖をついて出てきたのは須菩提祖師。
弟子たちは、みんなあわてて、真面目な顔をとりつくろう。
悟空ももとの姿に戻ってみんなの中にまぎれこみ、

「申し上げます。ただいま、みんなで議論をしておりました」
 
祖  師 「何をいうか。ワイワイガヤガヤ、
      それで修行ができるか。
      いったい何を騒いでおったのじゃ」

弟子達 「じつは、悟空が松にばけましたので、
      みんなで拍手喝采をしました」

 これを聞くと、須菩提祖師は弟子達をさがらせ、
悟空を呼び寄せた。

祖 師 「どうして、そんなことをしたのじゃ。
      術というものは、滅多なことで、人に
      見せるものではない。
      見れば誰でも教わりたくなるし、
      教えなければ無理にも教わろうとする。
      ついには危害を加えたりするのじゃ。
      それでは命をまっとうすることは難しくなる」

悟 空 「先生、どうかお許しください」

祖 師 「おまえを責めておるのではないが、
      こうなっては、おまえの命が危ない。
      ここに留まるわけには、いくまい」

 言われて悟空、涙をポロポロ流した。

「先生、どこへ行けとおっしゃるんです」

祖 師 「来たところへ、戻ればよかろう」

悟 空 「来たところ?あっ、そうだ。
      わたしは東勝神州の傲来国、
      花果山水簾洞から来たのでした」

祖 師 「早く、そこへ帰るのだ。
      いのちをまっとうするがよい。
      だが、よいか。これだけは、忘れてはならぬぞ。
      ここを去ってからのち、
      わしの弟子であったなどと、ひとことなりと
      申してはならぬ。口を滑らせば、
      わしにはすぐわかるのじゃ。
      おまえの皮をはぎ、骨を砕き、たましいを
      地底の彼方へ追いやって、
      絶対生まれ変わらぬようにしてやるぞ」

悟 空 「はい。けっして先生のお名前は出しません」

 こうして一同に別れを告げた悟空は、
觔斗雲に乗って、一路、東へ向かった。
 ひとときも経たぬうち、下に花果山水簾洞が見えてきた。
二十年まえ、ここを出たときは、
凡骨凡体(ぼんこつぼんたい)、
何のかわりばえもしない普通のからだ、
それがいまや道を得て、軽々と空を飛んでいる。
悟空はたまらなく愉快だった。
 雲をおろして着陸し、山へ入って行くと、
どうしたことだろう、
猿たちの悲しげな声が聞こえる。

悟 空 「おーい、今帰ったぞ」

 声をかけると、岩あな、草むら、林のなか、
ありとあらゆるところから、大猿小猿が何千となく
あらわれて、悟空のまわりに集まった。
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by seiten_taisei | 2001-02-20 00:00 | 児・花果山水簾洞の巻

悟空の修行 (ごくうのしゅぎょう) その3

祖 師 「どうだ悟空。ものになったか」

悟 空 「おかげさまで。
      もう雲に乗って飛べるようになりました」

祖 師 「ほう。ひとつ見せてもらいたいものじゃ」

 待ってましたと悟空、
トントントーンと連続宙返りを打ちながら
空中に飛び上がる。五、六丈の高さにのぼって、
あたりにたなびく雲に乗ると、ほんの一服のあいだに、
三里ほどを往復してみせた。

悟 空 「これが雲に乗る術です」

祖 師 「はっはっは。
      それでは雲に這い上がった程度じゃ。
      一日のうちら全世界をひとまわり
      するようでなければ、雲に乗ったとは言えん」

悟 空 「そりゃ、無理というもんです」

祖 師 「成せば成る。何事もこころがけしだいじゃ」

悟 空 「お願いです。乗りかかった舟って
      いうじゃありませんか、どうせなら、
      全部教えてくださいよ!」

祖 師 「よかろう。今見ていると、
      おまえはトンボ返りをしながらのぼっていった。
      あのやり方なら觔斗雲(きんとうん)の術が
      いいだろう。 
      觔斗というのは、宙返りのことじゃよ」

 悟空を呼び寄せ、なにやらムニャムニャ秘法を授けて、

「この雲は、宙返り一回で、一万八千里飛べるぞ」

これを聞いた弟子たちは、みな口々にうらやましがった。

「いいなぁ、悟空。その雲を使って飛脚でもやれば、
食いっぱぐれないぜ」

 その夜のうちに、悟空は觔斗雲の術を会得して、
それから毎日、自由自在に飛び回った。
 ある日、弟子一同が松の木陰で議論をしていたとき、

弟子達 「悟空、おまえ、
      先生からいろいろ教わったようだが、
      できるようになったかい」

悟 空 「ええ、おかげさまで。
      わたしも一生懸命やったんで、
      まあ、ひととおり・・・」

弟子達 「ちょうどいいや、じゃあ、やってみせてくれ」

 こう言われて悟空、いささか得意になった。
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by seiten_taisei | 2001-02-19 04:50 | 児・花果山水簾洞の巻

悟空の修行 (ごくうのしゅぎょう) その2

 須菩提祖師は、悟空を三度打った。
これは三更(さんこう・真夜中のころ)の頃来いという意味。
両手を後ろに回して奥に入り、扉を閉めてしまったのは
裏門から入って来いという意味。だれもいないところで
教えてやろうという意味、そういう意味だったのである。
 やっとのことで、夕暮れになる。悟空はみんなと一緒に
寝床に入り、眠ったフリをして夜中を待った。
山の奥のことて時計もない。
吸う息、吐く息で時間をはかり、そろそろ真夜中というころ、
こっそり起きだして裏門へまわり、須菩提祖師の寝室へ。

祖 師 「この猿めが!何をしにきた。
      向こうで寝ておれっ!」

悟 空 「昨日先生が真夜中に裏門から入って来い、
      そうおっしゃったと思いましたもんで。
      ずうずうしいかと存じましたが、
      こうしてやってきました」

 この返事を聞いて須菩提祖師、
心中ひそかに喜んだ。
・・・あの謎が解けたか。してみるとこいつ、
やはり天地から生まれたに違いない。

祖 師 「どうやら、おまえには縁があるようだ。
      よろしい、ではそばに寄って、よく聞け。
      今から不老長寿の秘訣を授けてつかわす」

  悟空は、寝台の前にひざまずいて、
じっと耳を澄ました。
  こうして悟空は、不老長寿の秘法を授かった。
外に出れば、東の空は、かすかに白くなっている。
そっと部屋へ戻ると、

悟 空 「朝だぞ!起きろっ!」

 寝台をゆすって、みんなを起こした。
悟空が出かけていったことに、気づいたものは、
誰もいなかった。
 それから三年。
 ある日須菩提祖師が、久しぶりに講義をおこなった。
その講義の途中のこと。

祖 師 「悟空は、どこにいる」

悟 空 「ここにおります」

祖 師 「どうだ。少しは修行が進んだか」

悟 空 「ええ、そろそろ卒業できるんじゃないかと・・・」

祖 師 「ふーむ。そういうことなら、次は三つの災いに
      気をつけることじゃ」

悟 空 「三つのわざわい?そりゃ先生、何かの
      間違いでしょう。道をさとり、徳を積めば、
      天と寿命が同じになり、病気もしないはずです。
      災いなんかが起きるわけありませんよ」

祖 師 「ふつうはそうだ。だがな、
      おまえは天地日月(てんちじつげつ)のはたらきに
      逆らって修行をしているのだから、
      そうはいかない。五百年後には、
      天はかみなりをくだしておまえをうつ。
      さらに五百年後には、火の災いが降りかかる。
      これは陰火といって、この火に焼かれれば、
      五臓は灰となり、手足はボロボロとなって、
      千年の苦行も夢に終わる。
      さらに五百年経つと、今度は風の災いだ。
      この風は贔風(ひふう)といって、
      からだの穴という穴から吹き込んで、
      骨も肉も溶かしてしまう」

 悟空は恐ろしさに震え上がり、その場にひれ伏した。

悟 空 「先生、お願いです。その災いから逃れる方法を
      教えてください」

祖 師 「よかろう。だが、この秘法はな、三十六通りと
      七十二通りと、二種類あるが、
      どちらがよいかな」

悟 空 「どうせなら、多い方でお願いします」

祖 師 「ちこうまいれ」

 悟空の耳元で、なにやら、ぶつぶつと呟いた。
どんな秘法を授けたのか、それは誰にもわからない。
しかし、一を聞いて百を知る悟空のこと、
たちまちのうちに七十二通りの変化(へんげ)を
会得してしまった。
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by seiten_taisei | 2001-02-14 09:24 | 児・花果山水簾洞の巻

悟空の修行 (ごくうのしゅぎょう) その1

 悟空は名前をもらって大喜び、それからというもの、
毎日熱心に修行に励んだ。礼儀作法、お経の勉強、習字、
そのあいまには畑を耕し、たきぎを拾い、水を汲む。
こうしてあっという間に六、七年たった。
 そして、ある日のこと。
 この日、三星洞では須菩提祖師の講義があって、
悟空も兄弟子たちに加わり、すみで耳をかたむけていた。
ところが聞いているうちに、妙にこころがウキウキしてきた。
じっとしていられなくなって、はじめは頭をかいたり、
耳をひっぱったりしていたが、
とうとうその場でおどりだした。

祖 師 「これこれ悟空、何を踊っておる。
      ちゃんと話を聞いたらどうじゃ」

悟 空 「いえ、ちがうんです。聞いているうちに、
      なんだかこう・・・先生の声が、とてつもなく
      素晴らしく聞こえてきたんで・・・。つい、浮かれて
      踊りだしちゃったんです。どうもすみません」

祖 師 「ほう。そんなふうに聞こえたか。
      それは大進歩じゃ。おまえはここに来て
      どれほどになるか」

悟 空 「さあ、どうも時間には弱いもんで・・・。
      そうそう、裏山に桃の木があります。
      あの桃の実がなるたびに、食べあきるほど
      食べますが そんなことが今までに
      七回ありましたっけ」

祖 師 「すると、もう七年じゃな。
      で、おまえは何を学びたいのかな」

悟 空 「道に関係あることなら、なんでもいいです」

祖 師 「ひとくちに道を学ぶと言っても、
      入り方はいろいろだ。傍門(ぼうもん)といってな、
      横の門が三百六十ある。どれを選んでも悟りに
      到達できるが、おまえはどの門がいいのじゃ?」

悟 空 「教えてもらえれば、なんでもやります」

祖 師 「それでは、流門(りゅうもん)はどうかな」

悟 空 「それはどういうものです?」

祖 師 「流門の中には、儒家、仏家、道家、陰陽家、
      墨家などがある。お経をあげたり、
      念仏をとなえたりするのじゃ」

悟 空 「それをやれば、不老長寿になれますか?」

祖 師 「流門を学んで不老長寿になろうとする。
      これは、壁の中の柱じゃ」

悟 空 「なんです、そのかべのなかの
      はしらっていうのは?」

祖 師 「家を建てるとき、これを頑丈にしようというので
      壁の中に柱を立てる。だが、やがて家が
      倒れてみれば、柱はきまって腐っておる」

悟 空 「なーるほど。長持ちしないってわけですね。
      では、やめておきます」

祖 師 「それでは、動門はどうじゃ」

悟 空 「そりゃ、なんです?」

祖 師 「陰を採って陽を補う、というやつじゃ。
      そのために、身体を鍛えたり、
      薬を練ったりする」

悟 空 「それで、不老長寿になれますか?」

祖 師 「動門を学んで不老長寿を得んとする。
      これ水中に月をすくうがごとし、じゃな」

悟 空 「また、なぞなぞですね。わかりません」

祖 師 「月が大空(たいくう)にかかれば、
      水にかげがうつる。だが、目に見えても、
      これをすくいとることはできない。
      つまり、骨折り損というわけじゃよ」

悟 空 「そいつも、ごめんこうむります」

  とたんに須菩提祖師、台から飛び降りて、
悟空を一喝した。

「こらっ!猿のくせに何をなまいきなことをいうか!
あれもいや、これもいや、
いったい何がいいというのだ」
 近寄りざまに、手にした竹箆(しっぺい・竹冠の下に内、
その下に比と書く、へら、という意味の漢字)で
悟空の頭をピシピシピシと三べん打つと、
両手を後ろに回して奥へ入り、扉を閉めてしまった。

弟子たち 「この馬鹿ザル!
      とうとう先生を怒らせてしまったな。
      こんどはいつ講義をしていただけるかわからんぞ」

 さんざん悪態をつかれたが、悟空はけろりとして、
嬉しそうに笑うだけ。それというのも、悟空には、
ちゃんとわかっていたからだ・・・。
 須菩提祖師は、悟空を三度打った。
これは三更(さんこう・真夜中のころ)の頃来いという意味。
両手を後ろに回して奥に入り、扉を閉めてしまったのは
裏門から入って来いという意味。
だれもいないところで教えてやろうという意味、
そういう意味だったのである。
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by Seiten_Taisei | 2001-02-13 20:11 | 児・花果山水簾洞の巻