悟空の修行 (ごくうのしゅぎょう) その4

悟 空 「それじゃあ先輩、なんに化けたらいいか、
      ひとつ課題を出してください」

弟子達 「松の木はどうだい」

 悟空は印(いん)を結び、呪文を唱えた。
身体をひとゆすり、たちまち一本の松の木に変わった。
一同、やんや、やんやの大喝采。と、そのとき

「誰だ、騒いでおるのは」

 奥から杖をついて出てきたのは須菩提祖師。
弟子たちは、みんなあわてて、真面目な顔をとりつくろう。
悟空ももとの姿に戻ってみんなの中にまぎれこみ、

「申し上げます。ただいま、みんなで議論をしておりました」
 
祖  師 「何をいうか。ワイワイガヤガヤ、
      それで修行ができるか。
      いったい何を騒いでおったのじゃ」

弟子達 「じつは、悟空が松にばけましたので、
      みんなで拍手喝采をしました」

 これを聞くと、須菩提祖師は弟子達をさがらせ、
悟空を呼び寄せた。

祖 師 「どうして、そんなことをしたのじゃ。
      術というものは、滅多なことで、人に
      見せるものではない。
      見れば誰でも教わりたくなるし、
      教えなければ無理にも教わろうとする。
      ついには危害を加えたりするのじゃ。
      それでは命をまっとうすることは難しくなる」

悟 空 「先生、どうかお許しください」

祖 師 「おまえを責めておるのではないが、
      こうなっては、おまえの命が危ない。
      ここに留まるわけには、いくまい」

 言われて悟空、涙をポロポロ流した。

「先生、どこへ行けとおっしゃるんです」

祖 師 「来たところへ、戻ればよかろう」

悟 空 「来たところ?あっ、そうだ。
      わたしは東勝神州の傲来国、
      花果山水簾洞から来たのでした」

祖 師 「早く、そこへ帰るのだ。
      いのちをまっとうするがよい。
      だが、よいか。これだけは、忘れてはならぬぞ。
      ここを去ってからのち、
      わしの弟子であったなどと、ひとことなりと
      申してはならぬ。口を滑らせば、
      わしにはすぐわかるのじゃ。
      おまえの皮をはぎ、骨を砕き、たましいを
      地底の彼方へ追いやって、
      絶対生まれ変わらぬようにしてやるぞ」

悟 空 「はい。けっして先生のお名前は出しません」

 こうして一同に別れを告げた悟空は、
觔斗雲に乗って、一路、東へ向かった。
 ひとときも経たぬうち、下に花果山水簾洞が見えてきた。
二十年まえ、ここを出たときは、
凡骨凡体(ぼんこつぼんたい)、
何のかわりばえもしない普通のからだ、
それがいまや道を得て、軽々と空を飛んでいる。
悟空はたまらなく愉快だった。
 雲をおろして着陸し、山へ入って行くと、
どうしたことだろう、
猿たちの悲しげな声が聞こえる。

悟 空 「おーい、今帰ったぞ」

 声をかけると、岩あな、草むら、林のなか、
ありとあらゆるところから、大猿小猿が何千となく
あらわれて、悟空のまわりに集まった。
[PR]
by seiten_taisei | 2001-02-20 00:00 | 児・花果山水簾洞の巻
<< 悟空の修行 (ごくうのしゅぎょ... 悟空の修行 (ごくうのしゅぎょ... >>