悟空の修行 (ごくうのしゅぎょう) その2

 須菩提祖師は、悟空を三度打った。
これは三更(さんこう・真夜中のころ)の頃来いという意味。
両手を後ろに回して奥に入り、扉を閉めてしまったのは
裏門から入って来いという意味。だれもいないところで
教えてやろうという意味、そういう意味だったのである。
 やっとのことで、夕暮れになる。悟空はみんなと一緒に
寝床に入り、眠ったフリをして夜中を待った。
山の奥のことて時計もない。
吸う息、吐く息で時間をはかり、そろそろ真夜中というころ、
こっそり起きだして裏門へまわり、須菩提祖師の寝室へ。

祖 師 「この猿めが!何をしにきた。
      向こうで寝ておれっ!」

悟 空 「昨日先生が真夜中に裏門から入って来い、
      そうおっしゃったと思いましたもんで。
      ずうずうしいかと存じましたが、
      こうしてやってきました」

 この返事を聞いて須菩提祖師、
心中ひそかに喜んだ。
・・・あの謎が解けたか。してみるとこいつ、
やはり天地から生まれたに違いない。

祖 師 「どうやら、おまえには縁があるようだ。
      よろしい、ではそばに寄って、よく聞け。
      今から不老長寿の秘訣を授けてつかわす」

  悟空は、寝台の前にひざまずいて、
じっと耳を澄ました。
  こうして悟空は、不老長寿の秘法を授かった。
外に出れば、東の空は、かすかに白くなっている。
そっと部屋へ戻ると、

悟 空 「朝だぞ!起きろっ!」

 寝台をゆすって、みんなを起こした。
悟空が出かけていったことに、気づいたものは、
誰もいなかった。
 それから三年。
 ある日須菩提祖師が、久しぶりに講義をおこなった。
その講義の途中のこと。

祖 師 「悟空は、どこにいる」

悟 空 「ここにおります」

祖 師 「どうだ。少しは修行が進んだか」

悟 空 「ええ、そろそろ卒業できるんじゃないかと・・・」

祖 師 「ふーむ。そういうことなら、次は三つの災いに
      気をつけることじゃ」

悟 空 「三つのわざわい?そりゃ先生、何かの
      間違いでしょう。道をさとり、徳を積めば、
      天と寿命が同じになり、病気もしないはずです。
      災いなんかが起きるわけありませんよ」

祖 師 「ふつうはそうだ。だがな、
      おまえは天地日月(てんちじつげつ)のはたらきに
      逆らって修行をしているのだから、
      そうはいかない。五百年後には、
      天はかみなりをくだしておまえをうつ。
      さらに五百年後には、火の災いが降りかかる。
      これは陰火といって、この火に焼かれれば、
      五臓は灰となり、手足はボロボロとなって、
      千年の苦行も夢に終わる。
      さらに五百年経つと、今度は風の災いだ。
      この風は贔風(ひふう)といって、
      からだの穴という穴から吹き込んで、
      骨も肉も溶かしてしまう」

 悟空は恐ろしさに震え上がり、その場にひれ伏した。

悟 空 「先生、お願いです。その災いから逃れる方法を
      教えてください」

祖 師 「よかろう。だが、この秘法はな、三十六通りと
      七十二通りと、二種類あるが、
      どちらがよいかな」

悟 空 「どうせなら、多い方でお願いします」

祖 師 「ちこうまいれ」

 悟空の耳元で、なにやら、ぶつぶつと呟いた。
どんな秘法を授けたのか、それは誰にもわからない。
しかし、一を聞いて百を知る悟空のこと、
たちまちのうちに七十二通りの変化(へんげ)を
会得してしまった。
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by seiten_taisei | 2001-02-14 09:24 | 児・花果山水簾洞の巻
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