斉天大聖 (せいてんたいせい) その3

 はなし変ってこちらは天上界。 
あくる日、天帝が朝廷にお出ましになると、
張天師 (ちょうてんし) が 御馬監 (ぎょばかん) の 役人を従えて進み出た。

「陛下、新任の弼馬温孫悟空めが、役不足を申し立てて、
天宮を逃げ出しました」

 そこ今度は、南天門から増長天王 (ぞうちょうてんのう) が、天兵を率いて参上した。

「弼馬温めが、理由もなく天門から出て行きました」

天 帝 「ふたりとも、持ち場に戻るがよい。 
      朕 (ちん) は天兵を差し向けて、
      あの妖怪を取り押さえてくれようぞ」

 その時、列座の中から、托塔李天王 (たくとうりてんのう) と、その三男の哪吒太子 (なたたいし) が
すっくと立ち上がった。

「陛下、微力ながら、その役目、我らにお申し付けくだされ」

 天帝は満足そうにうなずき、その場で李天王と哪吒太子に向かって、すぐに悟空を征伐に向かうよう命じた。
 本宮に帰ったふたりは、早速全軍に招集をかけた。
巨霊神 (きょれいしん) を先鋒にすえ、
魚肚 (ぎょと)、薬叉 (やくしゃ) の諸将を従えて
直ちに花果山へ軍をすすめる。地の利を選んで陣を敷くと、
まず巨霊神に命じて、戦いに挑ませた。
 日頃自慢の宣花斧 (せんかふ) を振り回しながら
水簾洞に近づいた巨霊神。見れば洞門の外で、
虎や豹などの妖怪が、槍や剣を振り回して、ほえたて、
はね回っている。

「こらっ、畜生ども。 弼馬温めに知らせろ。
われこそは天上界の大将、天帝のおおせにより、
征伐に参った。
とっとと降参すれば命だけは助けてとらす、とな」

 妖怪達はあわてて洞内に駆け込んだ。

「た、た、大変だぁ! 
門の外に天上界の将軍がやってきて、
降参せよと叫んでおります」

悟空 「よし、おれの装束を持ってこい」

頭には紫金のかんむり、身には黄金のよろい兜、
足には歩雲 (ほうん) のくつ、手には如意棒・・・。
身支度をととのえるや

「ものども続け!」

とばかり、洞門を飛び出して、陣形を固める。
 フンとせせら笑った巨霊神、

「この斧を受けてみよ」

と、まっこうから打ちかかったが、悟空の方は
余裕しゃくしゃく。如意棒を振るって迎えうち、
ひるむところを一撃すれば、相手の斧は
ポキッとまっぷたつ。

 ほうほうのていで逃げ戻った巨霊神、
はあはあ息を切らせながら、李天王の前に手をついた。

「弼馬温は、たいした神通力です。
到底かなわず、逃げ戻りました。どうぞお裁きを!」

李天王 「ええい、おまえのおかげで気勢がそがれる! 
      そこへなおれ。斬ってくれよう」

 いきまくところを哪吒太子が押しとどめた。

「父上、しばらく。 こんどはわたくしが出陣し、
きゃつの手のうちを確かめて参ります」

 よろい兜に身を固めた哪吒太子は、本陣を飛び出すと、
まっしぐらに水簾洞に向かった。
 悟空の方は、兵をおさめ引き上げるところだったが、
哪吒太子の あっぱれな武者ぶりを見て、足を止めた。

悟 空 「ようよう、どこの小せがれだい。
      こんなところで何をしようってんだ?」

哪 吒 「ばけ猿め! とくと見よ! 
      托塔天王の第三太子、哪吒を知らぬか。
      天帝の命により、きさまを捕らえに参ったぞ」

悟 空 「おいおい、坊や。 歯も生え揃わなきゃ、
      産毛も生え替わってもねえくせに、
      とんだ大口を叩くじゃねえか。
      しばらくの間は命を預けてやるからな、
      あの旗になんて書いてあるかをよく見ておけ。
      おうちに帰ったら天帝に申し上げるんだぞ。
      この官職を寄越せば騒ぎを起こさず
      帰順してやるが、さもなきゃ霊霄殿に
      暴れ込んでやるぞってな」

哪吒太子が振り仰ぐと 「斉天大聖」 と書いてある。

「ばけ猿め。神通力を鼻にかけて、こんな称号を語るとは!
こけおどしには乗らぬ。 この剣をくらえ」

悟空 「ほら、おれはじっと立っている。 
      勝手にかかってこいよ」

こうまでからかわれ哪吒太子は猛り狂った。

「変れ!」

と、一声叫べば たちまち三頭六臂 (さんとうろっぴ)
 ------ 頭が三つ、腕が六本の恐ろしい姿に変った。
六つのその手に持つ武器は

  斬妖剣 (ざんようけん)
  砍妖刀 (かんようとう)
  缚妖索 (ばくようさく)
  降妖杵 (こうようしょ)
  绣球 (しゅうきゅう)
  火輪 (かりん)

の六種。

これらをふりかざし、しゃにむに斬ってかかる。
 悟空は内心びっくり仰天。

「ほう、若造のくせに、味な真似をしやがる。
こいつは挨拶しなくちゃな。
そうれ、こっちも神通力だ」

これまた

「変れ!」

と叫んで三頭六臂に早変わり。
如意棒も三本増やしてこれを六本の腕であやつる。
 両者互いに秘術を尽くし、打ち合うこと三十合あまり。
哪吒太子の六種の武器が千変万化すれば、
悟空の如意棒も千変万化。
互い秘術を尽くし、空中に火花を散らせど、
いっこうに勝負がつかない。

だが、悟空はさすがにすばしっこい。
混戦のさなかに身体の毛を一本引き抜き

「変れ!」

たちまち悟空の分身が現れた。
手に棒を奮い、哪吒太子に立ち向かう。
すかさず本物の悟空は相手の背後に回り込む。
左腕めがけて打ち込んだ。

びゅう!
風を切る音に、哪吒太子はあわてて身をかわしたが、
時すでに遅かった。
一発食らって、ほうほうのていで逃げ帰った。

 こちらは本陣の李天王。
助勢を繰り出そうとする矢先に、
太子が戻ったものだから、さすがに真っ青になった。

李天王 「うーむ。
      やつにこれほどの神通力があろうとは。
      どのように攻めたものだろう」

哪 吒 「やつは、洞穴の前に
      斉天大聖と書いた旗を立てて、
      こうほざいております。
      天帝がこの官職を寄越せばよし、
      さもなくば霊霄殿に暴れこむぞ、と」

李天王 「やむをえぬ。
      ひとまず天上界に引き上げて、
      このことを上奏しよう。兵力を補強した上で、
      ひっとらえにきても遅くはあるまい」

 李天王と哪吒太子は、天上界に引き上げたが、
この話はひとまず置く。
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by seiten_taisei | 2001-04-03 00:00 | 児・天上界大混乱の巻
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