斉天大聖 (せいてんたいせい) その1

ところで悟空の觔斗雲は、性能が段違いに優れている。
スタート直後からぐんぐんスピードをはやめて、
ひと足先に天上界の南天門についてしまった。
雲をおさめて入ろうとすると、やり、刀、剣、ほこなどで
武装した天兵の一隊が前に立ちはだかった。

悟 空 「くそっ、あのいんちきおやじめ! 
      俺様を呼んでおきながら、こんな歓迎をするとは、
      どういうことだ」

 あたりちらしているところへ、やっと金星が追いついた。

悟 空 「やいやい、じじい。よくも俺様をだましたな。
      天帝のまねきだとかなんとか、うまいこと
      おだてやがって。来てみりゃ、
      とおせんぼじゃねえか」

金 星 「まあまあ大王、そう怒りなさるな。
      天兵にしてみれば、なじみのないものを
      勝手に入らせるわけにはいかんのじゃ。
      これかにおまえさんは天帝にお目見えし、
      仙人名簿に登録されて官位をさずかる。
      そのときこそ、出入りは自由なのじゃから」

悟 空 「やだよ誰がいくもんか」

金 星 「まぁそういわずに、わしについておいで」

 金星は天門に近づき、声高によばわった。

「かたがた、お通しくだされ。このものは下界の仙人。
それがし、天帝の命令でお連れしたのだ」

 天兵たちは、さっと武器をひっこめて道をあける。
これを見て悟空もやっと納得し、
金星の後から門をくぐった。
 さて、太白金星は、悟空を連れて
霊霄殿(れいしょうでん)につくと、さっそく進み出て、
うやうやしく礼拝した。悟空の方は、そばにつっ立ったまま、
礼拝もしないで、金星の報告に聞き耳を立てている。

金 星 「おことばによりまして、
      妖仙を召し連れて参りました」

天 帝 「妖仙はいずれにおる」

 ここではじめて悟空は、ぴょこんとあたまを下げて、

「ここにいるよ」

この返事に、なみいる仙人たちは顔色を変えた。

「この山猿め!礼拝もしないで ”ここにいるよ!”
とは、なんたる不敬! 死罪だ、死罪だ!」

天 帝 「まあよい。孫悟空とやらは、
      下界の妖仙。人間の仲間入りをしたばかりで、
      宮廷の作法を心得ぬのだ。
      ここは大目に見てやるがよい」

「さあ、お礼を申し上げるのだ」

と、臣下たちからうながされて、悟空もはじめて、
その場にひれ伏した。天帝が左右の臣下に、
官職をさずけるよう指示をくだす。

臣 下 「天宮には、どこにも欠員はありません。
      御馬監(ぎょばかん)の長官、
      弼馬温(ひつばおん)の役が空席となっている
      だけです」

天 帝 「そうか。では、その弼馬温に任ずるとしよう」

 一同がはーっとひれ伏したので、
悟空はなんとなく受けてしまった。そこで天帝は、
即金のものに命じて、悟空を役所へ案内させる。
 いまや、悟空の張り切りぶりは大変なもの。
着任すると、さっそく大小の役人を集めて、
事務の打ち合わせをやった。
天馬は千頭いるとの報告である。
悟空は帳簿をもとに、いちいち頭数を確かめ、
あらたに役人達の割り振りを決めた。
 それからというもの、日夜、寝食を忘れて馬の世話に
あたった。天馬はすっかりなつき、悟空の姿が見えると、
耳をぴくつかせ、ひづめを蹴立てて、すり寄ってくる。
どの馬も、毛色も艶やかに肥えふとってきた。
 こうしていつしか半月あまりが過ぎ去った。
ある日、悟空の着任祝いと、慰労をかねて、
宴会が開かれた。
 宴もたけなわのころ、悟空はふとさかずきを置いて、

「ところで、この弼馬温という官職は、どのくらい偉いんだ?」

一 同 「つまり、そういう役目なんです」

悟 空 「いや、位はどのくらいだと、聞いているんだ」

一 同 「とてもじゃありません」

悟 空 「なに、とてもじゃない? 
      よほど位が高いんだな」

一 同 「いいえ、とんでもない。規格外というやつで」

悟 空 「規格外?」

一 同 「びりっかすですよ。
      下っ端も下っ端、ただ馬の番をする役目です。
      長官は、おいでになってからというもの、
      熱心に働かれ、馬も肥えふとりましたが、
      せいぜい 『よしよし』 と誉められるくらいが
      関の山。反対に馬が痩せようものなら、
      小言をくらうし、病気にでもさせようものなら、
      厳罰をくらいますよ」

 悟空はたちまちカーッとなって、歯をむき出した。

「ちくしょう! よくも見くびってくれたな!
俺は花果山じゃあ大王とあがめられる身分。
その俺様をだまして、馬番なんかやらせやがって。
やめたやめた。俺はでていくぞ」

 ガラガラッとテーブルをひっくり返すなり、
耳から例の宝物を取り出し、おわんほどの太さにすると、
びゅんびゅん振り回しながら、御馬監を飛び出して、
南天門へとまっしぐら。天兵たちは、彼が仙人簿に
登録されている弼馬温であることを知っていたので、
こんどは黙って通してしまった。
 ほんのひと飛びで雲をおろせば、そこはもう花果山。
いましも四健将と妖王たちが、軍事教練の真っ最中だった。
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by seiten_taisei | 2001-04-01 00:00 | 児・天上界大混乱の巻
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