花果山の石猿 (かかざんのいしざる) 4

 岸辺には人間の姿も見える。魚を取るもの、
鳥を射るもの、ハマグリをほるもの、
塩水を汲むもの・・・
 人間達に近づいて行った美猴王、両手をあげて、
妙な格好を作り

「こわいぞ、こわいぞ」

人間達はきもをつぶして、ちりぢりに逃げる。
逃げ遅れたのを捕まえて、衣類を剥ぎ取り、
見よう見真似で、なんとかそれを身に着けると、
そ知らぬ顔で町へ紛れ込んだ。人間の作法や、
言葉を覚えながら、町から町へ。神仙をたずね、
不老長寿の術を求めて、旅を重ねたのである。
 ところが、彼が出会った人間はといえば、

   ロバに乗れば馬が欲しい
   大臣になれば王になりたい
   遅寝、早起き、ただあくせくと
   その日暮らしで一生を送る

というやつ。欲望で目をふさがれて、自分の命のことを
深く考えるものなど、ひとりもいない。
 あっという間に、八、九年たち、美猴王はついに
西洋大海の岸辺に出た。

「きっと神仙はこの海の向こうだ」

そう思いつくと、もう一度いかだを組んで、
海に乗り出した。
 こうして流れついたのは西牛賀州。
上陸して旅を続けるうち、高い山に出くわした。
気高い姿で聳え立ち、ふもとには奥深い森が
鎮まりかえっている。
怖いもの知らずの美猴王、ずんずん上って行けば、
奥でなにか声が聞こえる。
誰かが歌をうたっているらしい。

   伐れや伐れ伐れ 山の木を
   売って買え買え うまい酒
   酔って松の根枕 ごろりん
   醒めりゃ又伐れ 山の木を
   町で変えようぜ 米の三升
   気楽なくらしだ やまの中
   出会うは仙人  だけじゃもの

 見ればうたっているのはひとりのきこり。
さては仙人か。美猴王は飛び上がって喜び、
そばに駆け寄った。

美猴王 「仙人さま!弟子にしてください」

き こ り「なんだって、仙人?
      食うや食わずのわしら風情が、
      なんで仙人なもんか。仙人に会いたけりゃ、
      ほれ、あっちの道を行ってみな。 
      斜月三星洞(しゃげつさんせいどう)っていう
      洞府(どうふ)があるだよ。
      そこに須菩提祖師(すぼだいそし)という仙人の
      大先生が、ござっしゃるだ。 三十人ばかり、
      お弟子さんが修行しとるよ」

 きこりに礼を言って別れると、教わったとおりに南へ七、
八里、果たしてひとつの洞府があった。門はぴったり
しまっていて、人影はない。
ふと振り向くと、崖のふちに石碑が建っていて、
大きな字が見えた。

  霊台方寸山 斜月三星洞
  (れいだいほうすんざん しゃげつさんせいどう)

 やっぱりここかと思うと、天にも昇る心地がしたが、
なんだか気後れして、門をたたけない。門前の松に登って
松の実を食べながら、様子を伺っていた。
と、ギーっと洞門がひらいて

「誰だ、いたずらしているのは」

 中から出てきた仙童(せんどう)が、大声をあげた。

美猴王 「ちがうよ!俺、仙術をならいに来たんだ」

仙 童 「ふーん。今先生が、外に修行のものが
      来ているから出てみろって、おっしゃったんだ。
      おまえのことか。それじゃ、ついておいで」

 奥の部屋に案内され、見上げれば、台上に端座する
ひとりの仙人、これぞ須菩提祖師。台の両側には三十人の
弟子が居並ぶ。美猴王はその場にはいつくばり
ペコペコお辞儀を繰り返した。
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by Seiten_Taisei | 2001-01-19 03:35 | 児・花果山水簾洞の巻
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