花果山の石猿 (かかざんのいしざる) 2

 ある焼け付くように暑い朝のこと、石猿は仲間と一緒に
谷川へ水浴びに出かけた。こんこんと絶えまない水の
流れを見て、猿たちは口ぐちに言った。
なに、猿に話ができるかって? 昔から
「島には島のことばがあり、獣にはけものの言葉がある」
というではないか。

猿 達  「この水は、どこから流れてくるんだろう。
      どうせ今日はヒマなんだ。ひとつ水源を
      突き止めてみようぜ」

 ワッと歓声をあげ、老若男女、すべての猿が駆け出した。

 谷川にそって登りつめていくと、やがて、どうどうと
流れ落ちる大きな滝に行き当たった。風にしぶきが
飛び、虹がかかっている。

一の猿 「こりゃあすげぇや。あの山の下が
      トンネルになっていて、海から水が来て
      いるんだぜ」

二の猿 「滝の向こうがどうなっているか、もぐって見てくる
      やつはいないか。無事に帰って来たら、
      そいつが俺たちの王様だ」

 呼びかけること三度、「よし、おれがやる」と言って
飛び出したのは例の石猿。目を閉じ、身をかがめるや、
流れ落ちる滝めがけて躍り込んだ。
・・・ふと目を開け見回せば、あたりに水はなく、
前にくっきりとひとつの橋。気をおちつけて良く見ると、
鉄の橋が奥へと続いている。橋の下を流れてきた水が、
岩のすきまからほとばしり、いったん空中にあがって
滝となって流れて落ちている。そのかげに隠れて
橋の入り口が見えなかったのである。
 橋に登って向こうを見渡せば、そこはまるで人間の
住処(すみか)のよう、なんとも具合がよさそうである。
ピョーンと向こう側に渡って左右を見まわす。
正面に石碑が建ち、大きく楷書体で、こう記されていた。

 花果山福地  水簾洞洞天
 (かかざんふくち  すいれんどうどうてん)

 石猿は、もう嬉しくてたまらない。くるっと身を
ひるがえすと、また水の外へ。

石 猿 「おいみんな、すげえぞ」

猿たち 「中はどんなだった?水の深さは?」

石 猿 「水なんかあるもんか。鉄の橋があるんだ。
      橋の向こうは天然自然の邸宅だぜ」

猿たち 「なに、邸宅?」

石 猿 「滝で橋が見えねえんだ。橋があって、
      その向こうが洞窟になっててな。
      これがまるで邸宅よ。かまど、なべ、おわん、
      寝台、いす、みんな石でできたのが
      揃ってるんだぞ。住むにはもってこいだぜ。
      雨風の心配はいらねえし、
      広さだって充分。千匹は入れらあ」

猿たち 「そりゃいいや。案内してくれよ」

石 猿 「それじゃ、おれに続いて飛び込むんだぞ」

 石猿に続いて、まず大胆な猿、最後には
臆病な猿も意を決して飛び込んだ。
 橋を渡って新天地につくと、猿たちは大はしゃぎ。
おわんをひっぱりあうやら、寝床を取り合うやら・・・。
もうこうなると、猿というやつは始末に負えない。
のべつ幕なし切れ目なし、へとへとに疲れて
やっと静かになった。

石 猿 「さあ、みんな。孔子も言ってるぞ。
      約束を守らないやつは人間じゃないってな。
      さっきみんなはなんて言った?
      滝に飛び込んで無事に出て来たら、
      王様にすると言ったじゃないか。
      どうして俺を王様にしないんだ」

 猿たちはその場にかしこまり、年齢順に一人づつ
進み出て、「大王万歳!」を唱えた。
 こうして石猿は王位に就き、それからは
美猴王(びこうおう)と名乗ることになった。
配下の猿は猿猴(えんこう)、
彌猴(みこう・彌の字がない。原文は獣辺がつく)
馬猴(ばこう)など、それぞれ役につけ位を与えた。
 それからというもの、みんなそろって、朝(あした)は
花果山にあそび、夕(ゆうべ)は水簾洞に眠る、
楽しい暮らし。
空飛ぶ鳥の仲間にも、地を走る獣の仲間にも入らず、
一派を立てて、気ままに日を送った。
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by Seiten_Taisei | 2001-01-17 08:44 | 児・花果山水簾洞の巻
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